【コラム・瀧田薫】10月2日、アメリカ大統領トランプ氏夫妻が新型コロナウィルスに感染したとの速報が世界中を駆け巡った。11月3日の投票日まで約1カ月となったこの時点で、米国内外で懸念されていたことが実際に起きてしまった。とにかく、前代未聞の事態である。

これに、アメリカの政府、政界、経済界、マスコミはどう対応するか、アメリカ社会全体にどのような影響が及ぶか、さらに諸外国や国際機関がどう反応するか―しばらく様子を見てみないと、なんとも言えない。しかし、どのみち大混乱は必至だ。

4年前、2016年の大統領選挙にロシアがサイバー攻撃を仕掛けて不法介入したことについては周知の事実だが、今回はロシアだけでなく中国も選挙介入の絶好の機会と考えているだろう。

ワシントン発ロイター(8月7日)によれば、米国家防諜安全保障センターのW・エバニナ長官は、ロシア、中国、イランがそれぞれオンライン上での偽情報拡散などを通じて投票行動に影響を与え、民主的プロセスに対する信頼を失墜させたり、選挙データの改ざんなどによって、米選挙制度をかく乱する恐れがあると警告している。

なお、ロシアは、前回選挙と同様、トランプ大統領を支援し、バイデン候補の評判を落とす動きをしているといい、中国はトランプの再選を望んでおらず、米政策に影響を与えることを狙いとしているという。

「分断」された現在のアメリカ社会

9月29日、米大統領選第1回テレビ討論会があったが、討論とは名ばかりで、トランプ氏とバイデン氏の「ののしり合い」でしかなかった。

米CNNテレビの記者による「勝者はいない。負けたのはアメリカ国民だ」とのコメントは、この討論会の真実を言い当てていた。両候補とも、ただひたすら支持者向けのパフォーマンスに徹したのは、現在のアメリカ社会の「分断」状況を熟知した上でのことだろう。

他方、討論会の終了後、バイデン陣営と民主党に多額の選挙資金が集まり、討論会当日だけで3600万ドル超の献金があった(ロイター・30日)と報じられている。

これはバイデン氏の熱心な支持者からの献金だろうか。そうではあるまい。民主党への献金が、リベラル派のギンズバーグ連邦最高裁判事の死去後から急増したということからしても、とにかくトランプ再選だけは阻止したいという有権者からの献金であると思う。アメリカ社会の分断は、まさに底なしの様相を見せている。(茨城キリスト教大学名誉教授)