【コラム・浅井和幸】Aさんが自らの命を絶つしか方法が思い浮かばない―その不安感、恐怖感、絶望感は、そうでない立場に立つBさんには想像を絶するものです。BさんがかつてAさんと「同じ状況」を経験していても、それは「似た状況」であって「同じ状況」ではありません。

他の人の苦しさを簡単に推し量ることは誰にもできません。苦しさの最中にいる本人でも、分からないこともあるものです。「視野が狭くなっている」と表現することも可能な苦しい状況ですが、その「視野の狭さ」が当人には感じることのできる世界の全てなのです。

AさんとBさんには何ができるでしょうか。まずBさんですが、ある日、突然Aさんのような苦しい状況に陥るかもしれません。そのときのために、Bさんは普段から信頼できる複数の人間関係をつくっておきましょう。何かにつけて、その人たちに相談する習慣をつけておくとよいです。

つらくなったときには、誰を頼るか、どこに連絡を取るかなどを、日ごろからメモしておくのもよい方法です。これは、普段から避難訓練をしていたり、「119」「110」などの電話番号を意識したりしている方が、いざ火事や事故のときに行動がとりやすいのと同じです。

信頼できる人と時間を共に

そして、渦中にいるAさんはどうすればよいでしょうか。まず「死にたい」と考えてしまう状況は、充分に医療に頼る理由になるということを覚えておいてください。

熱が出てフラフラのときに内科を受診して服薬で症状を緩和したり、消化のよいものを食べてゆっくり休むように、精神科や心療内科を受診して服薬やカウンセリングで症状を緩和すること、睡眠などで休養をとることが大切です。「死にたい」は疲労がたまり過ぎた状況です。

信頼できる人と時間を共にしてみましょう。気持ちに余裕が出たら、アドバイスも聞いてみてください。アドバイスには絶対に従わなければいけない訳ではなく、別の考え方もあるということの確認する程度で構いません。無理なアドバイスは聞き流します。

Bさんが持つとよいAさんに対する心構えも、とても難しい問題です。緊急な場合は救急車を呼ぶということになります。緊急を要しないときは、Aさんに寄り添い、空間や時間を共にすることから始めてください。

Aさんに余裕があるように感じられ、できそうと判断できれば、少しアドバイスをしてみてください。アドバイスができそうもなければ、Bさんが専門家に相談してみてもよいでしょう。

アドバイスをしたら、Aさんが余計につらそうにしていれば、無理強いせずに、また寄り添ってあげてください。つらい理由が何かを無理に聴かず、Bさんの正当性を押し付けず、そっと隣にいてあげてください。Aさんが明日に希望を持てたら理想的ですが、そうでなくとも、そこに居てよいという安心感を感じられるようになるために。(精神保健福祉士)