【コラム・玉置晋】今、地球の人々を困らせているコロナウィルスを顕微鏡でみると、球形の周りに枝のようなものが放射状に拡がっているように見えます。もともと、コロナという名前の由来は太陽の外側の大気層からきています。

僕らが肉眼で見ている太陽は6000℃の光球です。その外側に10万℃の彩層と呼ばれる領域があり、その外側が100万℃のコロナです。特殊な観測機器を使わない限り、コロナを見ることはできません。唯一見ることができる機会が、月が太陽をちょうど覆い隠す「皆既日食」です。月の影の周りの淡い放射状の光の筋として見ることができます。この姿に似ているので「コロナウィルス」という名前が付いたといわれています。

100万℃の太陽コロナは、その高温ゆえにX線や極端紫外線といった波長の短い光を放っています。これらの光は大気で減衰するため、大気の底にいる僕らのところには届きません。でも、宇宙にある人工衛星で観測することができます。これらの光で太陽を見ると、時折、コロナにまるで穴が開いたように暗い部分が見えることがあります。この穴は「コロナホール」と呼ばれており、彩層から10万℃の高速風が吹いて来ることが知られています。

宇宙天気情報発信の難しさ

2020年8月上旬に「コロナホール」が観測されました。この時、地球の周りには秒速700キロを越える暴風が吹いていました。問題はその温度で、100万℃以上! これは彩層ではなく、コロナの温度です。通常、100万℃のコロナが地球周辺まで飛ばされる現象として、コロナ質量放出「CME(Coronal Mass Ejection)」と呼ばれるものがあります。おそらくCMEが絡んでいると思うのですが、肝心のCMEが見つからないため、確証を得られませんでした。

このことをTwitterでつぶやいたら、海外の見ず知らずの方から「君の言っていることはミスリードしているよ。悪しからず」とご指摘いただいてしまいました。今回のように判断が難しい現象に出合うことは多々あります。

宇宙天気の情報は、今後、社会の様々な領域で重要度を増していくことでしょう。この情報により、影響を受ける人々はどんどん増えていきます。ゆえに、責任ある立場で情報発信をする際は、地上の天気と同様に慎重を要します。一方で、慎重を期するあまり情報展開が遅れて、減災のチャンスを逃してしまうことは避けたいものです。(宇宙天気防災研究者)