【コラム・奧井登美子】
「イソジンガーグル、お宅の薬局においてある?」
「昔は20~30本は置いてあったけれど、今はほとんど出ないから、5本くらいしか置いてないわ」
「今、ニュースでイソジンがコロナに効くといったそうで、お隣の奥さんが欲しいんですって」

昔の薬剤師仲間の友だちからの電話で、何やらコロナ関係のニュースで、うがい薬が話題になっているらしいとわかったが、その内容を確かめる間もなく、見知らぬ人たちが、つぎつぎに薬局に飛び込んできた。

「コロナに効くヨードのうがい薬下さい」
「うがい薬で新型コロナが予防できるのですか?」
「予防じゃないよ、治療。薬剤師のくせに何もわかっていないんだな」

「ポピドンヨードあれば何本でもください。子供が車の中で待っているので早く」
「ヨード系は薄め方も難しいし、子供には向かないと思います」
「向くとか向かないとかではない。コロナにこれしか効かない」

ニュース見て殺到 怖い刹那的行動

「ポピドンヨードのうがい薬下さい」
「アズレンスルホン酸系統ならたくさんあるのですが、ヨード系でないとダメですか?」
「ポピドンヨード以外はダメ」

ヨード系の殺菌剤は、口の中の必要な常在菌まで殺してしまう。ヨードチンキと同じ匂いも強く、薄め方を間違えてしまうお年寄りも多いので、ここ20年くらいほとんど需要がない。

大阪府の吉村洋文知事が「テストでよかったから、ポピドンヨードでうがいをしてください」と言ったのが、ニュースに流れたのだということが後でわかった。

テレビで政治家のニュースを見て、専門職の意見など無視して、とっさに反応して刹那(せつな)的に行動する。私はそういう人種がたくさんいるのがわかって、少し怖くなった。(随筆家、薬剤師)