【コラム・浦本弘海】「大量の雨が―おお!おお!おお!」「ちょっと、伯父さん落ち着いて」。伯父からの突然の電話。しかもなにやら大慌てです。

「落ち着いてもなにも、隣地から雨水が流れ込んできて困っているんだ! お隣さんの雨水浸透桝(うすいしんとうます)が詰まったようで」「薄い新トーマス? 『きかんしゃトーマス』の親戚じゃありませんよね」

どうやら事故や災害ではないようで安心しましたが、耳慣れない言葉が。

「なんだ弘海くん、弁護士なのにそんなことも知らないの? 雨水浸透桝というのは―」

伯父によれば、雨水浸透桝とはその名のとおり雨水を地中へ浸透させる設備で、雨水を直接、排水路や側溝に流せない場合に役立つことはもちろん、地下水の涵養(かんよう)や冠水などの水害軽減にも寄与するようです。きかんしゃトーマスとは無関係でした。

一方で、定期的に清掃をしないと目詰まりを起して十分な浸透効果が得られず、桝から雨水が溢れることがあるとのこと。伯父の話によると、隣地の所有者は不在地主で地所の管理に熱心ではないようです。

そこで、隣地の所有者にまずは清掃をお願いするにしても、法的にどうなっているのか確認したくて連絡したとのことでした。

水流に関する工作物の修繕

ところで、本コラム9(2019年8月20日付)では隣家から木の枝や根が自分の敷地に入ってきた事例を取り上げました。そこで出てきたのが民法の相隣関係(隣りあった土地の間の法律関係を定めるルール)、今回も相隣関係のお話です。

ここでさっそく、今回のトラブルに役立ちそうな民法の条文をみてみましょう。

<水流に関する工作物の修繕等>
216条 他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。

簡単に言えば、他人の土地にある貯水や排水、取水のための設備が壊れたり詰まったりしたせいで自分の土地に損害が出たり出そうなときは、設備を修理したり障害を除いたりしてもらえるということです。今回のケースで言えば、民法216条により伯父は隣地の所有者に対し、雨水浸透桝の清掃を請求できることになります。

なお、費用は原則として他の土地の所有者(今回のケースでは隣地の所有者)ですが、民法217条によれば「費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う」とされておりますので、場合によっては土地の所有者(今回のケースでは伯父)が負担することもありえます。

記録的な長雨が続いており、各地で災害も発生しております。みなさま安全には十分ご注意ください。(弁護士)