【コラム・高橋恵一】新型コロナウイルス感染とその対応で、我が国の様々な実態があらわになったことに驚いた。まず、国民の命や生活を守るという意味で危機管理体制があまりにもお粗末だったこと。理知的な対策の方向も見いだせず、右往左往しているうちに、運よく落ち着いたということだろう。

支援金の支給など、緊急事態なら1週間もあれば、実施できるはず、というより、最優先しなくてはならないことを、業務の質もスピードも優れているはずの業者に手数料を払って外注した挙げ句、施策の成果が国民に届く時期は信じられないくらい遅れた。

「これで全てがつながりました」。テレビ番組「相棒」で、水谷豊扮する杉下右京警部が事件の真相を掴(つか)んだ時の決め台詞(せりふ)である。

日本はバブル崩壊後の社会経済対策として小泉構造改革を選び、政策のベースは、竹中平蔵氏に代表される新自由主義経済理論。聖域なき構造改革として小さな政府を目指し、役所や企業の効率化、スリム化を推進し、社会保障費を抑制し、医療機関を減らし、看護師や介護関係者の賃金を抑制した。その結果が、現在日本の感染症やその影響対策の実力である。

また、新型コロナウイルス後の社会経済構造を強化するとして、IT化、デジタル化を強化しようとしているが、ますます富の集中が進み、格差の拡大が懸念される。業務のアウトソーシングが進み、情報の寡占化が進むことになろう。

その受け皿になる企業体が、広告代理や印刷業などの施策・事業から仲介取りまとめ業に変身した企業や、本来の国や自治体が使命・ミッションとする業務を受注してしまう人材派遣業になっていて、膨大な利益を上げ、その企業体の幹部が政権と深くつながっていたり、経済財政策の指南役だと判明すると、権力の中枢の姿がよく見えてしまった。

次の時代への経済学的提言を

永く政権に影響力を持つ経済学者は、こういう時こそ、次の時代への経済学的提言をすべきだと思うが、日本には経済学者がいないのかもしれない。

世界では、社会経済分野の多くの学者が、中長期的な課題も含めて、様々な提言がされているが、それらを参考にすれば、日本は、PCR検査体制の確保など、第2波への対策とともに、経済活動の立て直しを進めるに当たって、失われた30年になろうとしている経済体質、個人消費の弱さの解消を図る必要がある。

日本の構造改革、スリム化は、人件費の抑制で実現したものである。「99%の貧困」を記したジョセフ・E・スティグリッツに言わせれば、効率化のため、スペアタイヤを積むのを止め、病院の病床稼働率を100%に維持する経営だ。

勤労者の賃金を上げるには、低賃金分野から改善すればよい。政府の意思で賃上げができる医療、介護の従事者の賃上げを思い切って実行すればよい。診療報酬や介護給付金は、政府の意思でできるのだ。もともと足りない所得層に金が回れば、消費にまわる率が高く、経済の好循環が実現するのだ。(元茨城県生活環境部長)