【コラム・奥井登美子】
「耳の後ろがかゆいのです。マスクのゴムのせいでしょうか?」
「暑い時のマスクは耳のところで汗かくから、アセモと同じ手当てをすればいいと思います」
「ゴムひもを取り換えてもダメですか?」
「かゆい所の汗を水でよく拭いてから、弱いステロイド軟膏を塗っておく」
「ウエットティッシュで拭いたら、よけい赤くなっちゃった」
「皮膚炎には、ウエットティッシュに少しだけ入っている防腐剤がよくないの。くたくたの洗いざらしたガーゼがあればいいんだけれど」
「値段の高いティシュにしたのに、なぜダメなんですか? くたくたのガーゼなんか、捨てちゃうからありません」
「困ったわね。家にいる時はマスク外してくださいね」
マスク皮膚炎、手指のアルコール皮膚炎、家のひきこもりに伴う軽いノイローゼなど、病気と言えないような軽い疾患が増えている。病院や医院に相談に行くほどでもないとあって、薬局の雑談まじりの相談電話は結構忙しい。
日本人の生活教育を見直すチャンス
言われたことをキチンと真面目に実行しているのにトラブルが起こってしまう。それにどう対処していいかわからない真面目過ぎる日本人がなんと多いことか…。
マスクのつけ方、マスクの用途、消毒薬の扱い方、ウエットティッシュの使い方など、医療以前の基本的な日常の生活術を知らない人たちがなんと多いことか…。コロナウイルス事件は日本人の生活教育を見直すチャンスではないかと思う。
私は薬史学会に入っているので、薬の歴史的な事件は一応学んだはずであったが、地域医療の地域が世界中に広がっての「医療のコロナ騒動」は、歴史的にみても初めての体験である。
町の薬剤師の1人として、この歴史的な体験をどう乗り切ればいいのか、日夜模索しながらお客様の電話に付き合っている。(随筆家、薬剤師)