【コラム・吉田礼子】先日、筑波大学構内と土浦市水郷公園をドライブした。新緑の美しさ、季節の移ろいや自然の再生する力に、活力が湧き起ってきた。コロナ禍で外出を控えていたが、買いものをして遠回りの寄り道。視界に入って来るもの、みな麗(うるわ)しい。

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」。山口素堂の俳句が頭を過ぎり、日本に生まれ育ってよかったと改めて感じ入った。若いころは、どの季節が好きかと聞かれると、四季それぞれのよさがあって、どれが一番などと言えなかったが、今は確信をもって春と答える。

桜の花が満開になり、散り始まると、葉桜が芽吹き、いよいよ新緑が始まる。萌木色(もえぎ色、緑 の萌え出ずる色)、鶸色(ひわ色、雀の種類で羽の色が薄黄緑)、若菜色(わかな色、春の七種)、若苗色(わかな色、田植えの早苗の色)など、繊細で微妙な色の違いや色名を教えてくれる本(『日本の色辞典』) と巡り会えた。

先日、NHK BSプレミアムで、染色家・吉岡幸雄さん出演の「失われた色を求めて」が放送された。吉岡さんは、古代から日本人が愛(め)でた色を草木や自然界の染料・顔料を使って再現、2000年に『日本の色辞典』を発表した。17年に放送された番組が先日再放送されたが、昨年9月、73歳で急逝されたとのこと。胸が痛くなった。

日本ならではの色彩感覚は海外でも注目され、英国の博物館でも吉岡さんの作品の展覧会が1カ月以上開催された。

紅絹、古代紫、黄八丈、弁柄、堆朱

私が色に強く興味を持つようなったのは、小学5~6年生のころ。国語の教科書に玉虫厨子(たまむしのずし)の物語が載っていたことによってだった。玉虫色はどんな色なのか知りたくて、母に聞いたり虫の図鑑で調べた。

母や周りの大人たちが話している色が面白い。着物で、藍染(あいぞめ)、紅絹(もみ)、古代紫(こだいむらさき)、黄八丈(きはちじょう)。塗り物で、溜(ため)ウルミ、弁柄(べんがら)、黒柿(くろがき)、堆朱(ついしゅ)、青磁(せいじ)、白磁(はくじ)、赤絵(あかえ)など、生活の中にあった彩、優しい響きの色名も、大切な日本の文化だと思う。

生活様式の変化や技術革新などにより、自然由来の染料や材料の入手が困難になり、絶滅の危機すら感じる。国を挙げて、文化遺産継承として歌舞伎などと同様に保護していく必要があるのではないか。  この2カ月、コロナ禍で不自由なこともあったが、新発見もあった、人の温かさ、優しさ、家族の絆。そしてテレワーク…。face to faceの大切さも感じた。これから経済は、予期せぬ展開もありそうで、予断を許さないと思うが、心を合わせて乗り切りましょう。(料理教室主宰)