【コラム・奥井登美子】亭主は、製薬会社の研究所に勤めていたせいか、今でもメーカーの開発に関心がある。

「コロナ肺炎に、まだ決定的な特効薬がないのね」

「インフルエンザの時のタミフルみたいな薬、早く出てくるといいね」

「今、コロナにかかったら、処方箋に、何の薬が載るのかしら?」

「レムデシベルが効くという話。日本ではまだ許可されていない薬だから、アセトアミノフェンくらいしかないよ」

「大正8年のスペイン風邪の時はアスピリンしかなかったと、お母さんが笑っていたわ」

「100年たっても、まったく同じこと、繰り返している」

「コロナのワクチンが早くできるといいけれど、生物製剤だから時間がかかるし、困ったね」

何万年も前から続く人類とウイルスの闘い

彼の山岳会の友だちで福島の山に詳しい人がいて、時々連れて行ってくれる。茨城県のお隣の県なのに、福島に行くと、茨城では体験できない、何か不思議なものに会えるのだ。秋に行った時は、紅葉の下の無数の粘菌(ねんきん)に会うことができた。

福島市への途中、木地小屋(猪苗代町)の集落の中に岩が苔蒸(こけむ)している。近づいてみたら「蝉丸(せみまる)の墓」と書いてあった。本当だろうか。平安時代の「逢坂の人」の墓が福島にあるのがわからない。小野小町の墓がたくさんあるように、蝉丸の墓も日本中に散らばっているのだろうか。

百人一首の中の蝉丸の歌は、

「これやこのゆくもかえるも分かれてはしるもしらぬもおおさかのせき」

コロナ肺炎のウイルスがいつ収まってくれるのかわからない。人類とウイルスとの闘いは何万年も前から途切れなく続いている。平安時代も、大正時代も、そして現代も、知るも知らぬもが、薬の世界なのだ。

そこで「セミ丸」流の短歌を、薬剤師の「トミ丸」も一首。

「これやこのゆくもかえるもウイルスは知るも知らぬもおおげさの咳」(薬剤師)