【コラム・先﨑千尋】今や世界中にコロナウイルスが蔓延(まんえん)。アメリカやスペイン、ニューヨーク市などは非常事態宣言を出し、20日に米国務省は全国民に渡航中止、帰国を勧告した。今、世界各国で人や車両の移動制限、工場の閉鎖、国境閉鎖、集会の禁止、統一地方選挙の延期など、人とモノの移動に大幅な制限がかけられている。

わが国でも、先月に専門家会議とかが「ここ1~2週間が山場」と言っていたが、感染の拡大は止まらないでいる。茨城県でも17日に感染者が出て、県や関係企業などはあたふたしている。前回の本欄でも触れたように、私が関わりを持つ研究会や講演会、集会、法事などはすべて中止か延期になり、手持無沙汰(てもちぶさた)。農業に専念できる。

そんな中、13日には新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正特措法)が成立した。この法律では、新型コロナウイルスの流行で国民生活に甚大な影響が生じると判断した場合、首相は期間と区域を定めて「緊急事態」を宣言し、都道府県知事が外出自粛や休校、工業施設の利用制限などができる。

この改正案の審議はわずか3日。立憲民主党の一部、共産党などが反対したが、圧倒的多数で国会を通過した。しかし、日本弁護士連合会や憲法学者などから反対の声明が出されている。また、新聞の論調もおおむね自制的だ。

国民生活の混乱、経済対策は後回し

その疑念は、政府が宣言を出す際の手続きが不透明、あいまいだということにある。安倍首相は専門家会議に諮ると言っているが、その専門家は政権に都合のいい人しか選ばれないのではないか。第一、国会で議論しないで、「一気呵成(いっきかせい)に、間髪を入れず、これまでにない発想で」(首相の記者会見での発言)非常事態を宣言されたら、私たちはたまったものではない。政府が「緊急やむを得ない」と判断すれば、伝家の宝刀はいつでも抜けるのだ。

安倍首相は、一斉休校やイベントの自粛を、専門家や官房長官、文科大臣などの取り巻きの反対を押し切って独断で決めた。国民生活の混乱、経済対策などは後回し、人権への配慮も見られない。まず、ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染の実態解明をなすべきだ。

首相主催の「桜を見る会」をめぐる数々の疑惑、隠蔽、法解釈変更による東京高検検事長の定年延長問題など、直近の動きを見ると、「法の支配」を軽視する安倍政権の姿勢は鮮明ではないか。

「特措法の改正は改憲の布石ではないか」と見る考えもある。自民党の改憲草案には「外国からの武力攻撃や内乱、地震などの大規模災害の発生時には『緊急事態』を宣言し、内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できる」とある。暴虐極まりなかったナチスドイツのヒトラーも、合法的なやり方で「全権委任法」を国会で制定し、反対勢力を駆逐した。

自民党の伊吹文明元衆議院議長は、1月の派閥の会合で「新型肺炎の緊急事態に対し、憲法に保障されている個人の移動の自由、勤労の自由、居住の自由をどう制限するか。改憲の大きな一つの実験台と考えた方がいい」と述べている。コロナ感染を改憲の実験台にされてはかなわない。わが国で緊急事態が宣言されれば、オリンピックは確実に吹っ飛ぶ。(元瓜連町長)

➡先崎千尋さんの過去のコラムはこちら