【コラム・相澤冬樹】阿見町で、先月末から始まった「あみ産いちごのスウィーツフェア」は、特産のイチゴを使った和洋菓子やパン、杏仁豆腐(あんにんどうふ)などで、春をおいしく迎えようという企画。町商工会(大谷茂樹会長)の主催でことしが8回目、町内の菓子店、ベーカリー、飲食店など8店舗が参加して31日まで展開中だ。フェアを支える、町でただ1軒のイチゴ専業農家を訪ねた。

旬を迎えた「とちおとめ」で食材供給を一手に引き受けているのは、同町実穀の野口いちご園。代表の野口長男(おさお)さん(75)ととみ子さん(75)、昨年金婚式を迎えたばかりの夫妻が切り盛りする。自営でやっていたプラスチック成型の工場を子供たちに譲り、16年前に農業に転身した。とみ子さんが60歳を前に発症したくも膜下出血がきっかけだったそう。

「土地だけはあったからのんびり畑仕事でもと思って、最初はキュウリとかトマトとか作ったのだけど、もっと軽いのがいいって始まったんだよね」ととみ子さんが記憶をたどると、長男さんは「やんなきゃよかったよ」と応じる。

栃木県内のイチゴ生産者に指導を受け、ハウスを建てて苗づくりから始めたのだが、これが苦労の連続。カビが入って発生する炭疽病(たんそびょう)やうどんこ病で苗をダメにしたり、大雪でハウスが倒壊してしまったり、毎年毎年気まぐれな天候、気象との戦いになった。あまりの大変さに、春に行う苗の育成は止めてしまった。

16年間「とちおとめ」一筋

生産するのは「とちおとめ」1品種のみ。「甘さ」を追求して落ち着いた結果という。しかし、収量的には16年間で「うまくいった」と思えた年は1年しかなかったそうだ。今シーズンも昨年暮れの日照不足で、花のつきが悪かった。味覚は例年並み、十分な甘さを保っても変形果が多数できて、売り上げ的には芳しくない展開が続く。

そんななか、2年前から始めた無加温栽培が成果を上げ始めている。ハウス内の温度が4℃になるまで、ボイラーを焚いたりしない栽培法で、経営を圧迫していた燃料費の高騰に対抗策が見つかったとの感触を得ている。

長さ100メートルと70メートルのハウスがそれぞれ3棟あったのに加え、無加温栽培のハウスを2棟設けた。合わせて2万5000株のイチゴを栽培する。カビの制圧のため最初に生物農薬を用いるが、花が咲いた後は一切農薬を使わない。

加温せずとも室温は午前中に20℃を超え、ハウス内には甘い匂いがいっぱい。今は2番花(にばんか)のイチゴの収穫時期で、3番花の回りをミツバチが飛び回っている。完熟の朝どりイチゴを店頭販売している。

◆あみ産いちごのスウィーツフェアの特設ページ

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