【コラム・玉置晋】野球のボールを僕が投げたら、たぶん30メートルくらい先で落ちるでしょう。メジャーリーグで活躍したイチローさんだったら、130メートルくらいか。もっともっと強力なパワーで投げると、地球の縁(ふち)にそって、永久に周り続けます。すなわち、ロケットで打ち上げられる人工衛星です。

これがやっかいで、地上からどんどん新しい人工衛星が打上げられて、宇宙ゴミが増えていく。これが「落ちない問題」。コラム55「人工衛星衝突=宇宙ゴミ飛散の危機」をご覧ください。

 一方で、地球周辺の宇宙空間は完全には真空ではありません。国際宇宙ステーションが飛ぶ高度400キロでは、地上の10万分の1くらいの密度の大気があります。だから、少しずつ大気抵抗が効いてきて、飛翔する物体の形状、宇宙天気(太陽活動や地磁気活動)にもよりますが、1年くらいで大気圏に落ち、摩擦熱で燃え尽きます。こちらは、コラム18「特異日 衛星落下と仏革命」をご覧ください。

だから、宇宙機の運用を維持したければ、スラスタと呼ばれる機器で推進剤を噴射して、大気抵抗で減った速度を回復させなければなりません。これらが「落ちる問題」。

太陽活動が活発だと、高層大気が膨張する性質があるため、宇宙ゴミを大気圏に早く落とす作用がある一方で、落としたくない人工衛星にとっては不利益を被ることになります。サスティナブル(持続可能な)宇宙利用は「落ちない問題」と「落ちる問題」のバランスをとって初めて成立するものです。これを制御する力を、現段階では、人類は持ち合わせていないことを認識しないといけません。

人生の「落ちる」「落ちない」

 「落ちない問題」と「落ちる問題」のバランスとはいいましたが、人生、「落ちたり」「落ちなかったり」いろいろです。僕は40年ぐらい生きてきましたが、「落ちる」:「落ちない」=8:2といったところかな。

学校の入学試験しかり、資格試験しかり、「落ちて」ばかりでございます。千葉県成田市の成田山新勝寺には、易占いをしてくれる「易所」が並んでいます。毎年、年始に運勢をみてもらうのですが、僕の人生の幸せは2つで、20代と30代で1回ずつ、計2回とのこと。

振り返れば、20代では幸運に宇宙の仕事に就けたこと、30代は結婚したことでしょうか。落ちてばかりでも、しつこく継続していれば、1~2回は落ちずに受かるものです。それで十分だと自分に納得させるのと同時に、若者たちにエールを送りたいのですが、諸先輩方、同意していただけますか?(宇宙天気防災研究者)

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