【コラム・奥井登美子】

「オタクの薬局にマスクありますか」

「すみません。今、品切れです」

「消毒用のアルコールはありますか」

「それも品切れなのです。申しわけありません」

電話がかかってきて、どうしようもない。薬品会社を何軒探し回っても、アルコールとマスクが手にはいらないのだ。

手と指の消毒ならば、医者が手術のときなどにも使う「ベンザルコニウム系の殺菌消毒薬」が、カビ類、グラム陰性菌、陽性菌、真菌にも有効。しかし、ウイルスの滅菌には今いちらしいのであるが、細菌類だけでも駆除することが出来れば、私たちの世代ではありがたいと思って使ってしまう。

しかし、こういう応用の仕方の出来ない世代の人たちも多いのだ。テレビの報道が一番こわい。

オタオタしない度量が必要

「テレビのニュースで、消毒はアルコールでなければいけないと言っていました」

「ウイルスと一般細菌とは仕組みが違うらしいですね」

「アルコールはお酒に入っているのと同じものなのですか?」

「エチルアルコールには違いないのですが、消毒用は70パーセント。かなり濃いです」

「お酒から造ることが出来ないのですか」

「さあ、酒屋さんで聞いてみてください」

ウイルスと細菌の違いもわからないくせに、断固として主張されると、こちらもどうしていいかわからなくなって、馬鹿みたいなことをいうしかない。

人類は、何万年も前からウイルスと戦ってきたのだ。いまさら、感染経路の不明な、わけのわからないウイルスが登場しても、オタオタしない度量が人間に必要なのではないかと思う。(随筆家、薬剤師)

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