【コラム・古家晴美】年の瀬も迫り、あわただしくなってきました。新年でも開いているお店がある現在とは異なり、1960年代までの元旦の朝は、日常とは異なるピリッとした空気が張り詰めていたのを覚えています。今回はお雑煮について取り上げたいと思います。

全国的に見た場合、東京の焼いた角餅・大根・人参・小松菜などを入れた醤油仕立てのお雑煮に対し、京都の茹(ゆ)でた丸餅・里芋・大根・人参などを入れた白みそ仕立てのお雑煮がしばしば紹介されます。

これ以外にも、イクラを載せ鮭の切り身が入った北海道や岩手県のお雑煮、餅と青菜が入った愛知県のお雑煮、甘い小豆あん入りの餅が入った和歌山県のお雑煮、フグを入れる広島県のお雑煮、焼きアユを入れた愛媛県のお雑煮、鳥取県の小豆雑煮、焼きあごでだしを取りかつお菜を入れる福岡県のお雑煮―など様々です。

さらに、市町村、集落、家ごとに異なります。また、正月三が日に雑煮や餅を食べない「餅なし正月」も全国的に存在します。

県南地域に絞ってみると、現在は鶏肉などを入れる家庭も多いですが、以前は焼いた角餅とネギ・油揚げ・大根などを入れた醤油仕立てのお雑煮が多かったようです。

「青物(葉物)は入れない」(稲敷市浮島、麻生町、つくば市妻木、かすみがうら市田伏・坂など)、里芋・人参・ごぼう・豆腐を入れる、餅を焼かない(麻生町、かすみがうら市宍倉、つくば市平塚、龍ケ崎市上町・馴柴)、焼いた角餅以外は何も入れない、醤油味の大根雑煮(かすみがうら市坂、牛久市小坂)などバリエーションに富んでいます。

また、稲敷市古渡へ1700年前後に関西から移住して来た記録が残っているある家では、現在でも関西風の白みその雑煮を作っています。(坂本要編『東国の祇園祭礼』)

家庭のルーツを残しながら進化

前述したのは地域に根付いた特産物を使ったお雑煮ですが、進学・就職・転勤・結婚などに伴う地域的な移動が多い現代社会において、出身地のお雑煮を移住先で食べることにより、自らのルーツを確認するということはしばしば見受けられます。

江戸時代でも同様で、最後に挙げた関西風の雑煮を食べ続けている例が、まさにそれにあたります。異なる地域の人が結婚した場合、元旦は夫の家の雑煮、2日は妻の家の雑煮というように、両者が融合することもあります。

年明けに食べるおせち料理は、スーパーやデパート、料亭、通販などの「中食」(調理済みのものを購入し家庭で食べる)に移行しつつありますが、それに比べ、お雑煮は調理が比較的シンプルなこともあり、家庭で作ることが多いようです。家庭のルーツを残しながら進化していくお雑煮は、生きもののようで非常に興味深いものです。

お雑煮とは別に、大晦日に食べる「お年取りの膳」もありますが、それは機会がありましたら、ご紹介させていただきます。では、よいお年お迎え下さい。(筑波学院大学教授)

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