【コラム・及川ひろみ】「ウサギ追いしかの山」。懐かしい故郷を唄ったこの童謡、口ずさめる方も多いと思います。さてノウサギ。最近、大変減っていることが環境省の全国調査で明らかになりました。しかし、そんなニュースが信じられないほど、宍塚の里山では生息の痕跡(こんせき)が見られます。以前、地元の方が里山の畑にブルーベリーを植えたら、何者かが片っ端から枝先を切ってしまうと聞き、見に行きました。

高さ50センチほどのブルーベリーの枝先には、切れ味のよい小刀で斜めに切った跡が見られました。このような切跡を残す犯人はノウサギです。周りには何か所も、ノウサギの落とし物「コロコロな糞」がありました。

私たちの会では、里山で果物を楽しみたいと果樹園をつくり、スモモ、ミカン、梅、小梅、クルミなどを植えました。冬、そこに若者2人が庭に育った2~3メートルもある4本のビワの苗をえっさえっさと運び、植えました。

すると間もなく、ビワの根際(ねぎわ)近くの幹の表皮が70センチほどの高さまでかじられ、どのビワの樹もオレンジ色の内側の皮がむき出しになり、皮にはノウサギの前歯の跡がくっきりと残されていました。かじられたビワの樹、1本だけかろうじて残りましたが、3本は枯れてしまいました。

ほとんどの植物では、葉でつくられた栄養分を運ぶ師管(しかん)が木部の外側にあることから、ノウサギに師管をかじられ、栄養が根に行かなくなり枯れたのです。ノウサギは枝をかじるだけでなく、さらなる被害を生んでいる可能性があります。残されたビワの樹の根元には、ノウサギ除けのネットを張り、今年も花を咲かせています。

乾いてコロコロした糞

さて、食べものの豊富な春から秋は特に目立ちませんが、冬期になるとノウサギの食べ跡が林や散策路で見られます。ブルーの実が美しいリュウノヒゲや、人気の野草春蘭(しゅんらん)の葉、そしてヤマツツジの枝も好物で、枝は鋭い鋭利な刃物で切られた跡が見られ、春蘭は根際まで葉を食べます。

また、草原に人が座ったような丸いくぼみが見られることもあります。ノウサギの毛が倒された草に付いていれば、そこはノウサギの休憩場所だったと言えそうです。

ノウサギの糞は、乾いてコロコロした干し草色のものが普通ですが、黒あるいは濃い緑色のベトベトした柔らかい軟便をすることもあります。出したあと、間もなく食べてしまうので見ることが少ないのです。

牛は反芻(はんすう)によって食べた栄養分を効率よく吸収しますが、ウサギは反芻ではなく、いったん糞として出しそれを食べるのです。人が藪(やぶ)に分け入ったときなど、慌てて逃げ、食べ損ねたものを見るのです。ノウサギにとってははなはだ迷惑なことです。固いコロコロの糞もよく食べると言う説もあります。

最近、定年退職された地元の方が里山の入口にブルーベリー畑をつくりました。周囲には、ノウサギ除けのネットがしっかり張り巡らされています。(宍塚の自然と歴史の会代表)

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