【コラム・玉置晋】「宇宙天気研究と社会インフラ現場の間には専門知識と機密性の2つの『死の谷』が存在しており、宇宙天気研究が社会インフラ現場に伝わっておらず、現場の情報が研究者に伝わっていない。この橋を渡る『宇宙天気インタプリタ(翻訳者)』が必要です。研究と実務の死の谷を飛び越えていかないと、発展はありません。宇宙天気が当たり前の時代を見据えて土台をつくっていくのが、我々世代の責務です!」と、いくつかの学会で格好つけてきました。

2059年の世界観、月に普通のヒトが住むのはもう少し先の話で、常時、数10人の調査員が滞在する、そう、2019年時点の南極基地のようなイメージ。でも、人類の生活圏は高度100キロに達し、大陸間の移動はサブオービタルフライト(弾道飛行)が主流となり、割高にお金を払えば東京からニューヨークに2時間で到着する。

衛星軌道は数10万の大規模衛星群と数100万の宇宙デブリが過密に飛び交う時代。宇宙状況監視・宇宙交通管理局(通称SSA/STM局)はこれらの交通管制と太陽および地球周辺の宇宙環境監視を行う役割を担う。

宇宙環境監視とはいえ、自分で望遠鏡を覗くわけではなく、衛星の観測データが自動にコンピューターに取り込まれ、人工知能AIが1次評価を行う。宇宙天気に関してAIが特異と判断した場合、「宇宙天気インタプリタ」はその情報を精査する。宇宙天気研究者や宇宙交通管制オペレーターと協議の上、危機と判断したら、宇宙交通の「通行止め」などの勧告を行う。

ある日、太陽の黒点群の異常な発達をAIが検知し、24時間以内のXクラスの太陽フレアの発生確率は99%と表示された。AIを用いた太陽フレア予測は2010年代ごろより急速に発展した。太陽フレア発生の物理メカニズムは非常に複雑で、2059年時点でもその解明には至っていない。代替して、過去の蓄積データを用いた機械学習により、未解明のサイエンスを補完し、宇宙天気は実用に耐えうるものになりつつあるのだ。

宇宙天気エンタメ

僕は上記のような職業ができると想定して活動しております。一方、現在において、宇宙天気で利益を出すにはどうしたらよいか仲間内で議論した結果、エンタメが必要かもしれないとの結論に至りました。

最近では、茨城発の宇宙ベンチャー企業「Yspace」が宇宙天気VRコンテンツを開発しています。僕が研究指導を受けている茨城大野澤研究室(宇宙天気防災)でも科学考証で協力させていただいており、今後が楽しみなコンテンツです。(宇宙天気防災研究者)

※プレスリリース:宇宙天気×エンタメで宇宙天気が知名度アップし、応援してくれるヒトが増えるといいなあと期待しています。

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