【コラム・玉置晋】以下、宇宙に深く関連する職場での雑談です。「宇宙天気って、昔から重要だ、重要だ!というけれど、一向に食えんな!」「人間の想像力には限界があって、実際に不幸な出来事を体験しなければ、ニーズは生まれないだろうね」。極めつきは「君はあと20~30年遅く生まれるべきだったね」。トホホ…。

宇宙天気というのは、「社会インフラに影響を与える宇宙環境変動」です。といっても何のこっちゃですよね。僕たちは毎日「おてんと(天道)様」を気にして生きています。お天道様というのは「太陽に畏敬と親しみをこめて言う語」と辞書にあります。

太陽は世界中で古代より神格化され、太陽神として祀(まつ)られています。日本では天照大神(アマテラスオオカミ)が太陽神ですね。神様ですから、人智を越えたパワーを持っています。太陽表面での爆発現象「太陽フレア」の威力は、人類が生み出した最強最悪の武器である水素爆弾10万~1億個分の爆発エネルギーに相当するといわれています。

2012年には、最強レベルの太陽フレアが発生しましたが、発生場所が地球と反対側の太陽の裏側でした。あと2週間発生が早ければ、地球の正面で爆発がおき、地球はその直撃を受けていたことでしょう。世界中の電力・通信網が影響を受け、文明が後退する恐れすらあった危機でした。

天照大神の匙加減で救われた?

米コロラド大学の先生の論文「2012年7月の太陽放出現象を極端宇宙イベントと定義」(※)によると、「もしガスの塊(かたまり)が地球方向に放出されていたならば、19時間で地球周辺に到達し、1852年に発生した観測史上最大の宇宙天気イベント『キャリントンイベント』を上回る磁気嵐が発生した可能性があった。われわれは、このような極端宇宙天気現象が電力網のような技術システムへ与える影響について、早急に議論すべきである」とあります。

つまり、天照大神のわずかな匙(さじ)加減により、われらの社会インフラはことなきを得たのです。

幸い、7年前は何事もなかった。そして、今も社会的な対策はみられない(一部の研究プロジェクトは動いていますが)。雑談で出てきた「人間の想像力には限界があって、実際に不幸な出来事を体験しなければニーズは生まれないだろうね」は、的(まと)を得たコメントなのかなあと思います。

僕は少しでもこの状況に抗(あらが)いたいと思います。「宇宙天気インタプリタ」という構想を提案する旅に出ます。―つづく―(宇宙天気防災研究者)

※ D,N,Baker.; X,Li.; A,Pulkkinen.; C,M,Ngwira.; M,L,Mays.; A,B,Galvin. A major solar eruptive event in July 2012: Defining extreme space weather scenarios. SPACE WEATHER. 2013, vol.11, p.585-591. doi:10.1002/swe.20097.

➡玉置晋さんの過去のコラムはこちら