【コラム・瀧田薫】天の底が抜けたのか、この秋、雨が降り続け、堤防の決壊や土砂崩れなど、温暖化による環境破壊のスピードはわれわれの予測をはるかに超えている。

古来、政治の要諦(ようたい)は「治山・治水」にあった。いつの時代も、国家であれ企業であれ、組織体というものは、環境変化に負けない「持続可能性」の獲得を第一義とし、それぞれの時代の制約に縛られながら、効率的な資本や資源の配分を追求し続けてきたのである。現代の国家・政府が、圧倒的な科学・技術力を擁しながら、山川の管理に失敗しているのであれば、その原因・理由が厳しく問われなければなるまい。

政府は東日本大震災を契機に、2013年、「国土強靱(きょうじん)化基本法」を制定した。この基本法では、「大規模自然災害等から国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活および国民経済を守る」ことを国の基本的な責務としている。

しかし、国は法律上の主体ではあるが、大規模災害などに対する脆弱(ぜいじゃく)性を評価し、優先順位を定め、事前に的確な施策を実施するなど、実際上の役割を担うのはむしろ自治体である。国はこの法のための財源を確保する一方、各自治体に対して、それぞれに「国土強靱化地域計画」を策定するよう指示し、その実施を義務づけている。ただし、言うまでもないが、この「地域計画」の中身を審査し具体的な予算をつける権限については、国がしっかりと握っている。

米国のFEMAのような組織が必要

以上を踏まえた上で、この法律が有効に機能しているかどうか確認しておこう。内閣官房の資料によれば、「地域計画」を実際に策定した自治体は、全国でわずかに162自治体(2019年現在)にとどまる。ちなみに、茨城県内自治体の策定状況を見ると、県当局は策定しているが、市町村で策定しているのは古河市だけである。

ただ、自治体の怠慢を責めるのは酷かも知れない。同じく官房の資料を読めば、自治体の消極的姿勢、その理由が分かる。「国土強靱化地域計画」に対する2019年度予算(交付金・補助金)の総額は1兆6,876億円であるが、これが9府省庁それぞれの所管による合計34種の交付金・補助金に細かく分けられており、国が自治体向けに開設した相談窓口(事実上の審査窓口)もこれと同じ数だけある。

つまり、これは自治体に膨大な事務作業を強いる非効率極まるシステムなのである。繰り返すが、組織が環境変化に対応して「持続可能性」を獲得するには、効率的な資本や資源の配分が何よりも優先されねばならない。この国において、米国のFEMA(Federal Emergency Management Agency 連邦緊急事態管理庁)のような、大規模災害時の支援活動を統轄する効率的な組織をなぜ作れないのか。

国が守るべきは、所轄官庁の権益ではなく、国民であり国土である。ともあれ、国に比べれば、自治体の防災行政の方に改善の可能性がありそうだ。ふるさと納税にワンストップ特例制度(確定申告なしで寄附金控除が受けられる便利な仕組み)を導入した自治体である。行政改革の能力はすでに実証されている。(茨城キリスト教大学名誉教授)

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