《土着通信部》 1 「十王図を読む」を聞く


相沢冬樹さん

一般財団法人つくば里の文化(根本健一代表)による「近世の仏教絵画里帰り展」が19日まで、つくば市吉瀬で開かれた。つくば文化郷・ギャラリーなが屋門に吉瀬地区ゆかりの仏教絵画10幅などを展示した。これらの絵画はふだん同市の桜歴史民俗資料館に保管されているが、公開の機会がほとんどないことから曝涼を兼ねての里帰り展となった。

ギャラリーのある旧根本家住宅は、2015年に国の有形文化財に登録となり、管理のための財団設立などを経て、文化財として活用する方策が整ってきた。そのお披露目を兼ねての記念事業が同展で、17日には茨城民俗学会長、今瀬文也さんを招いての講演会「十王図を読む」が行われた。

「十王図」は、平安時代の僧、源信が著した『往生要集』に記された地獄や六道の様子が原典。絵画の部分だけ抜き出して掛け軸としたことで、江戸時代以降、民間に広がった。一般には10枚の十王像と地蔵像の1枚で構成され、お寺では盆や供養の後、十王図を掛け、説法に使われた。

吉瀬地区には年代不詳ながら江戸中期に入ってきて、鹿島神社に奉納され、集落の念仏講の席に掛けられてきた。神仏習合である。作者も不詳だが、1枚に2王ずつ配した5幅と地蔵像の組み合わせの掛け軸は、明治と昭和に村民の手で軸装が改められたことが記されている。

十王図じたいは近世社会にはどこにでもあったもので、文化財としての希少価値には欠ける。「それでもこれだけ保存状態のいいのは珍しい」と今瀬さんはいう。大の閻魔(えんま)好きである今瀬さんは「閻魔さんの顔はやっぱり赤くないと」と色彩の鮮やかさをほめるのである。

そう、十王図は閻魔大王はじめ冥界の十王が登場し、忿怒(ふんぬ)の形相で死者の群れを裁く地獄絵だ。罪深い亡者は虫けらのように小さく描かれ、繰り返し地獄の責めを受ける。釘を打たれ、火に焼かれ、痛々しい様が延々と続く。

初七日の秦広王に始まり、七日ごとに初江王、宋帝王、五官王、閻魔王、変成王と来て、四十九日が泰山王、百ケ日の平等王、一周忌の都市王、三回忌の五道転輪王で十王となる。三途の川や奪衣婆(だつえば)、閻魔帳など地獄模様も織り込んで、生前の行いが地獄の沙汰に通じると殺生や盗み、不倫などを「いましめ」つつ、遺族には回向の大切を説く構図となっている。

冥土で怖い形相で亡者を裁く役目を果たす十王は、実は本地の菩薩様の形を変えた姿であるというのが信心の救いになっている。衆生済度。閻魔王は、地蔵菩薩の化身として考えられており、地蔵像の1幅が十王図と対になる所以ともなっている。

僕なんぞにはなかなか立ち入れない、地域社会の奥深いメンタリティーの根源をのぞき見するようでもある。冥界の王に申し開きは出来ぬから、今のところはすごすごと引き返すしかない。(相沢 冬樹)

▽つくば文化郷:つくば市吉瀬1679-1 電話029-857-3355

【あいざわ・ふゆき】1953年土浦市生まれ。常陽新聞(旧社)に在籍もキャリアは1999年まで。辞めて18年も経つのに周囲も自分も記者扱い・記者気分が抜けない。この間地域政策コンサルタントを経て、現在は地元財団の発行する機関誌でパートタイム編集長を務める。記事はもっぱらブログ「重箱の隅に置けない」に書いている。http://fykai.blog.fc2.com/