【コラム・及川ひろみ】8月半ばごろ美しい花を咲かせる「クサギ」、名前の通り葉には独特の香りがあります。若いころは大変臭いと感じたものですが、最近の子どもや若者は、ゴマのような香りと、さほど臭いとは感じないようです。里山の日が当たる所なら普通に見られるこの植物、子どもたちや若者たちに、この葉をなんどもかがせましたが、臭いと表現する人はあまりいません。

「ヘクソカズラ」―屁と糞、臭いものの代表を2つも冠したこの植物の匂いも、最近はそれほど強烈な臭いがしません。かつては鼻が曲がるほど臭いと感じたものです。私の鼻が若い頃より劣ったこともありますが、クサギの例のようにヘクソカズラも最近の子どもたちには強烈に臭いとは感じないようです。

1994年6月、明治薬科大学の平賀敬夫先生を講師に「身近な薬草を見る」と題した観察会を行いました。そのときすでに、ヘクソカズラの匂いが昔ほど臭くないことが話題になりました。先生から、「九州でも同じような話を聞いた。広範囲で起こっている環境の変化、例えば酸性雨などの影響かもしれない」との話でした。

ブルーの実は草木染に使えます

さて、クサギの花。日中は特にアゲハチョウの仲間がよく吸蜜(きゅうみつ)にやって来ます。夜になるとスズメガなどやって来て受粉します。ともに長い口吻(こうふん)を持つ昆虫です。

そして秋、ラピスラズリのような光沢のある美しいブルーの実を付けます。実の周りにはブルーを引き立てるような真っ赤な、しかもピカピカ光った「がく」のある、とてもおしゃれな実です。

このブルーの実は草木染に使えます。草木染めと言えば繊維に染料を定着させる媒染剤(ばいせんざい)を使い染めることが多いのですが、クサギの実は媒染剤を使う必要がなく、実を煮て、煮汁に布をつける、それだけで染まります。

1992年、会がオニバスサミットを開催したとき、資金の足しにと大勢で様々なグッズを作りました。その中で、白い木綿のハンカチをクサギの実で染める草木染めにも挑戦、鮮やかな美しいブルーに仕上がりました。ただ媒染剤を使わないことから、何度も洗濯すると色落ちするので、丁寧に洗い、長期間使い続けました。

クサギは身近な植物、実を集めればだれにでもできます。花と実、2度も3度楽しめる植物です。そのクサギ、少し前まではクマツヅラ科に分類されていましたが、DNA配列を基にした新しい分類体系によって、現在ではシソ科に移りました。(宍塚の自然と歴史の会代表)

➡及川ひろみさんの過去のコラムはこちら