【コラム・高橋恵一】群馬県吾妻郡嬬恋村に、鎌原観音堂(かんばらかんのんどう)がある。八ツ場(やんば)ダムの吾妻川上流、浅間山火口から12キロ離れた元の鎌原村は、江戸時代の天明3年(1783)に、浅間山の大爆発による「土石なだれ」に襲われ、村全体が埋まってしまった。当時の村人570人のうち、高台の観音堂にたどり着いた93人だけが生き残って、50段の石段は上から15段を残して埋まり、生死を分けた。 

仙台市若林区霞目に浪分(なみわけ)神社がある。海岸から5キロほど離れた位置にあり、昔の津波が、この神社の手前で二手に分かれ、ここまでで引いていったと伝わる場所である。神社の裏100メートルのところに、初代横綱谷風(たにかぜ)の墓があり、その後ろに自衛隊の駐屯地がある。自衛隊基地が、神社や谷風に護られている位置にある。 

最近、地震による地面の液状化、がけ崩れの危険個所、大雨による浸水区域などを警告する「ハザードマップ」が注目されているが、鎌原観音堂や浪分神社は、当時の「ハザード・ランドマーク」みたいなもので、緊急避難の目標地点や住居建設には向かない地域を示していたのだ。 

平野部は標高5メートルまで水没? 

近年、日本で目立つのは、台風による大雨洪水や暴風の被害だが、地球温暖化由来の災害で、異常な夏の暑さも、日本近海での漁業環境の変化も同根であろう。 

しかも、温暖化の影響は地球全体で受けており、北極や南極の氷が解けることにより海面が5メートル上昇し、海に沈んでしまう南洋の島国がある。海岸沿いや海に連動している内水面は、一時的な洪水ではなく、標高5メートルまでの土地が水没するのだ。 

さらに、標高差による気温差は、100メートルにつき0.6℃といわれているので、温暖化により1℃気温が上昇すると、標高160メートル下がることと同じになり、農作物を含む生物の生育条件も変化することになる。日本は、全体的に傾斜が急な構造になっているので、平野部の平坦地は、標高5メートルまで水没し、居住地域は、標高160メートルの傾斜地に移ることになるかもしれない。 

イタリアの観光地トリエステのような街になるのだろうか。行ってみたいけど、住みたくはない。(地図愛好家)

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