【コラム・先﨑千尋】福島第1原発の事故に続いてまたも想定外か。9日に上陸した台風15号による千葉県の大規模停電から2週間経つ。しかし依然として停電完全復旧の見通しは立っていない。東京電力は当初、11日中の全面復旧を見込んでいたが、それが13日以降になり、次は27日などと、楽観的な見通しが繰り返し先延ばしされている。東電側の説明は「現場を確認すると、損傷が想定よりも大きかった」。

北海道でのブラックアウトは1つの巨大発電所の故障によるものだった。しかし今回の大規模停電は発電所や送電線が原因ではなく、電線が切れたり電柱が倒れたりしたことによるもので、東電の当初の甘い想定をはるかに超えていた。

テレビは連日、千葉県内の被害状況を伝えている。停電、断水、家屋の倒壊・損傷、農林漁業の被害など。電気も水も来ない病院や福祉施設。ブルーシートで覆われた街並み。倒木で寸断された道路。落ちた梨や死んだ伊勢エビ。

過酷な状況を見ていても、私には何もできないもどかしさを感じる。被害は千葉県だけでなく、新島、式根島などの伊豆七島でも出ているようだが、ほとんど伝えられていない。テレビには給水所などの情報が流されているが、必要な人はそれを見られない。住民には被害状況を知る方法も伝える手段もないという。

それなのに、千葉県の森田健作知事はやっと11日になって、安倍首相に激甚災害の早期指定を要請した。その後、森田知事は記者団に対し、「混乱したことは事実。混乱の中でいろいろ問題が出てきている。誰が悪い、これが悪いではない」と述べたという。

国や地方自治体は誰のためにあるのか

では政府、安倍首相はなにをやってきたのか。予定通り(?)11日に内閣改造だ。小泉進次郎さんが環境相として入閣し、マスコミは小泉フィーバー。内閣支持率も5%上がったとか。異を唱える人はいなかったようだ。

国や地方自治体は誰のために、なんのためにあるのか。二言目には「国民、住民の生命と財産を守る」という。しかし、今回の災害で首相や知事のとった行動は、本気で国民の生命財産を守ることを考えてはいないということを示しているのではないか。

内閣改造など、1週間、1カ月遅らせても誰も困らない。国を守る、国民を守るということは、米国から言われて何兆円もの武器を買うことではない。この緊急事態に、災害地の人たちに食料、電気、水などのライフラインを迅速に確保できる体制をつくることではないか。そのためにはすぐに動く。対応する。しかし、安倍さんも森田さんもそうはしなかった。国民、県民を守るという姿勢が見えてこない。

もう一つ付け加えたいことがある。今回の想像を絶する倒木は、1964年に木材が自由化され、丸太や合板などの関税がゼロないしは一ケタにされたことが真因だ。木材価格は3分の1に下がり、山林は誰も手入れせずに荒れ放題。山林王国なのに、木材の自給率は90%から20%台に落ち込んでいる。自由化のツケが回ってきたのだ。

こうしたことに触れない、メスを入れようとしない、メディアにもがっかりする。(元瓜連町長)

➡先崎千尋さんの過去のコラムはこちら