【コラム・沼澤篤】以前、本コラムで、霞ケ浦で聴きたい音楽のうち、イージーリスニングの名曲を紹介した(6月21日掲載)。今回はクラシックの名曲を取り上げたい。ヘンデルの「水上の音楽」は、1715年にジョージⅠ世のためにロンドンのテムズ河畔で催された王宮の音楽祭で初演された。開放的な河畔での演奏であったから、王侯貴族だけでなく庶民も聴くことが出来ただろう。

トランペットで華やかさを、バイオリン、ホルン、オーボエ、ファゴットのアンサンブルで優雅さを表現しながら、全体の曲調で王家の威厳を保ち、荘厳さを強調しているようだ。それだけでなく、個々の楽章では、親しみやすい優しい曲調も組み込まれており、庶民も心地よく鑑賞したに違いない。

この第1組曲の序曲で、アダージョとスタッカートの小気味よい旋律が期待感を高め、第2組曲から第3組曲の終章まで、アレグロ、メヌエット、アンダンテのリズミカルで浮き立つような旋律が続き、舞踏会が開催されたのだろう。

曲調が変わるたびに、踊り手が交代し、休憩や軽い飲食を取りながら、河畔で夏の夜が更けるのを楽しんだことが容易に想像できる。またテムズ川には、王侯貴族を乗せた、豪華な船が何艘(そう)も浮かび、船上にも楽隊が配置されたかもしれない。

バロックの名曲「水上の音楽」

タイ・バンコクのチャオプラヤ川で、当時のプミポン国王即位60周年祝賀行事(2006年)の、見事な竜頭で装飾された船列を写真で拝見したことがある。晴れやかで荘厳な雰囲気が伝わってきた。

霞ケ浦でも12年に1度、式年大祭鹿島神宮御船祭(おふねまつり)が行われる。大船津の一之鳥居から祭神を載せ、龍頭で飾られた御座船(ござぶね)を中心に、約百艘の供奉船(ぐぶせん)が従う船渡御(ふなとぎょ)は見事だ。こうした行事で楽隊は欠かせない。

バロック音楽の名曲である「水上の音楽」を霞ケ浦でも聴いてみたい。ライブは無理でも、遊覧船上から湖面を眺めながら、CDで格調高い名曲を聴けば、霞ケ浦への思いも募るだろう。霞ケ浦周辺を車で廻(まわ)る時、岸辺に車を停めて、CDで「水上の音楽」を聴くのも一興。雲や空の色の変化、波、岸辺の葦の輝きを眺めながら聴けば、至福の時を過ごせる。

ただし,車を運転しながら聴くのは危険だ。バロック音楽は宇宙空間を流れる旋律のように脳をリラックスさせ(幸せホルモンのセロトニンなどが分泌される)、責任を伴う運転業務の注意が疎かになり、事故を起こしかねない。英国の調査報告では、運転時に聴くと危険な曲として、クラシックが幾つか挙げられている。天才作曲家たちは、車の運転時に聴くことを想定していないのだ。

閑話休題。ヘンデルは名曲「王宮の花火の音楽」も残した。この曲は「土浦全国花火競技大会」で聴いてみたい。遊覧船や屋形船、堤、桟敷席、橋、高津の高台、マンションなどのお気に入りの場所で、色彩豊かで華やかな花火を楽しみながら、「平和」と「歓喜」を主題にしたこの曲を聴けば、我々庶民でも豪奢(ごうしゃ)な気分を味わえる。(霞ヶ浦市民協会研究顧問)

➡沼澤篤さんの過去のコラムはこちら