【コラム・玉置晋】前回のコラム(8月22日掲載)の続きです。僕は、「宇宙ファミリー」のマサヒロ父さん、サチコ母さん、小学生のユズノ、ソメノ、ブンタに誘われて、茨城県から長野県の野辺山に向かいました。夜中の2時半に家を出発したので、さすがに眠たくてウトウト。マサヒロ父さんは一睡もせずに、朝の6時半には野辺山に到着。天文台見学には早かったので、どうするのかなと思っていたら…。

サチコ母さん:「じゃあ、山登ろうか!」

僕:「はい?」

サチコ母さん:「あの山」

僕:「マジですか?」

その山は頂上がご飯を盛ったような形をしており、飯盛山(めしもりやま)と呼ばれています。標高は1643メートルです。標高だけ見るとビビリます(ちなみに茨城県民なじみの筑波山は877メートル)。でも登山口の所で標高1300メートルありますので、頂上まで実質300メートルぐらいです。よって、インターネット上には「初心者向け登山コース」と書いてあります。

前日に雨が降り、ぬかるみ気味の足元を気にしながら、岩場に足をかけて登っていきました。マサヒロ父さんと小学生のユズノ、ソメノ、ブンタは、ぴょんぴょん登って行きます。サチコ母さんは僕のペースに合わせて、おしゃべりしながら登ってくれました。山の空気は本当においしい。下山する人とも元気にあいさつを交わして楽しい。

「僕の屍を越えて行け」

僕は忘れていました。半年前の腰痛(3月24日掲載のコラムで触れました)と運動不足から来る膝(ひざ)痛が、想像以上に僕の体を蝕(むしば)んでいたことを。3分の2ぐらい登ったところで、腰と膝が悲鳴を上げ始めて、変な汗をかき呼吸も苦しい。「デスゾーンに入っている。これ以上進むと自力で下山できなくなる」と、僕のゴースト(魂)が囁(ささや)きました。

サチコ母さんに「すまぬ、先に行ってくれ」と言い、岩場に座り込みました。ユズノ、ソメノ、ブンタよ、僕の屍(しかばね)を越えて行け、と訳の分からないことを考えながら、呼吸が落ち着くまで休んで、ゆっくりゆっくり下山しました。初心者向け登山コースでも、運動不足だと遭難のリスクがあることを思い知らされました。

登山口まで下りて来ると、眼下に巨大なアンテナが見えました。次回は、旅の目的地「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」の見学について書きたいと思います。しばらくすると、宇宙ファミリーからは、頂上からの眺めを撮った写真が送られてきました。頂上、僕には遠かったなと、黄昏(たそがれ)ながら彼らの下山を待ちます。(宇宙天気防災研究者)

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