【コラム・奥井登美子】茨城県の誇る童謡詩人野口雨情の詩、
シャボン玉 飛んだ
屋根まで飛んだ
屋根まで飛んで 壊れて消えた
シャボン玉 消えた
飛ばずに消えた
うまれてすぐに
こわれて 消えた
は、雨情が幼い娘を亡くしたときに書いた詩で、そう思うとなにか切ない。
彼の詩は中山晋平の作曲とともに、大正時代、全国の子供たちの心をつかんだ。「コガネムシ」の唄もはやった。
黄金虫は 金持ちだ
金蔵建てた 蔵建てた
子供に水あめなめさせた
ここに出てくる黄金虫(こがねむし)は、現代の虫用語ではゴキブリのことである。
ゴキブリを尊敬しなければならない
私たちの幼いころ、ゴキブリは黄金虫とか油虫と呼んでいた。森にしかいない虫で、森の下草の中にすぐに隠れる。その早いこと早いこと、まるでスポーツ選手のようだ。いつも7~8種類はいたようだが、そのうちクロゴキブリとチャバネゴキブリだけが、「ゴキブリ革命」を興(おこ)して人間の台所に侵入してしまった。
ゴキブリの産業革命である。それが何時(いつ)ごろだったのか。ゴキブリの歴史学者に聞いてみないとわからないが、1950(昭和25)年以後である。戦後のどさくさにまぎれて台所に侵入したゴキブリは、驚異的な発展を遂げて子孫を繁栄させている。
足の速さとともに適応力も天才的だったのである。今でもどんぐり山に行くと、革命に乗り遅れたたくさんの森のゴキブリを見ることができる。家庭に進出した虫の適応力のすごさ。私たちはゴキブリを尊敬しなければならない。(随筆家)
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