【コラム・先﨑千尋】「福島第一原発は津波の前に壊れた」という『文藝春秋』9月号の記事を読んで、私は戦慄を覚えた。元東京電力社員の木村俊雄さんという、炉心の専門家が実名で告発している。

東電はこれまで、「地震の後に来た津波により、非常用ディーゼル発電機、配電盤、バッテリーなど重要な施設が被害を受け、非常用を含めたすべての電源が使用できなくなり、原子力を冷却する機能を失った。この結果、炉心溶融とそれに続く水素爆発による原子炉建屋の破損などにつながり、環境への重大な放射能物質の放出に至った」と説明してきた。津波で電源を喪失し、冷却機能を失ってメルトダウンが起こり、重大事故が発生した、ということだ。

「メルトダウンの原因が地震ではなく津波だったら、津波対策を施せば、安全に再稼働できる」という結論になる。これをもとに、2013年に国の原子力規制委員会は「新規制基準」を決め、これにより川内や玄海、大飯原発などが再稼働になった。東海第2原発もまだ動いていないが、同様に昨年許可されている。

福島の事故を受けて、国会、政府、民間、東電がそれぞれ事故調査委員会を立ち上げ、膨大な報告書を出している。しかし木村さんは「いずれも事故原因の究明として不十分」だったという。いずれも、炉心の状態を示すデータが不可欠なのに、それを見ていないからだ。

福島第1 は地震動で燃料破損していた?

木村さんは、東電社内でも数少ない炉心のエキスパート。現場での「叩き上げ」の人だ。東電にデータの開示を求め、これを分析して驚いた。過度現象記録装置、飛行機でいえばフライトレコーダーやボイスレコーダーのようなデータを見たら、地震発生後わずか1分30秒後に炉心を冷やす水の流れがストップしたことがわかった。

津波の第1波が到達したのは地震の41分後だから、そのはるか前に炉心は危機的状況に陥っていたのだ。「想定外の津波によりメルトダウンした」という東電の主張が根底から崩れることになる。しかし、4つの事故調のメンバーは、このデータを見ていなかった。東電が調査委にデータを開示していなかったから。

木村さんはさらに、東電の企業体質も無視できないという。原発の事故後に過度現象記録装置のデータを隠蔽していたが、それ以前にも都合の悪いことは隠す体質だった。データの書き換えも行っていたなどの事例を挙げている。

炉心のエキスパートであった木村さんは、最後に「原発にはそもそも無理がある。長年現場経験を積んできた実感で、『私は反原発』」と言い切る。

そして、原発を動かすなら「事故を教訓に十分な安全基準を設けることが最重要。しかし、その根拠となるべき事故原因の究明すらなされていない」「津波が想定外の規模だったかどうか以前に、地震動で燃料破損していた可能性が極めて高い」「耐震対策には膨大な費用がかかり、現実的には原発はいっさい稼働できなくなる。この問題は決して過去の話ではない」と、東電や国の動きに警鐘を鳴らしている。

私は、この木村さんの勇気ある発言をもとに、国の原子力政策は根本から考え直すべき、と考えている。(元瓜連町長)

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