【コラム・浦本弘海】「もしもし、お久しぶり、弘海くん元気?」。「はい、おかげさまで」と私。遠縁の親戚からの電話、うれしい知らせならよいのですが、この職業を選んでからは…。

「聞いているよ、弁護士になったんだって? それで、相談というか聞いてほしいことがあるんだけど―」。はい、分かってます。遠縁の親戚が特段の事情もなく電話をかけませんよね…。

この手の電話、前は苦手だったのですが、このコラムを執筆するようになり、ネタに困ってからは大歓迎になりました。

「ほうほう、それでご相談というのは?」。今月のコラムもそろそろ締め切り。聞く方にも力が入ります(本コラムはフィクションであり、実在する事件などとは一切関係ありません。念のため)。

「それがね―」。相談というのは、隣の家の木の枝が自分の敷地まで伸びてきて困っているという、隣人関係のトラブルのようです。

前々回のコラム(6月18日掲載)で、法律関係の研修をするとき、受講者に「法とはなにか?」を問うというお話をしました。法は機能の面で捉えますと、紛争を未然に防ぐ機能と紛争が生じた場合に解決する機能があります。

そして、私法(私人間の関係を規律する法)の一般的なルールを定めた法律が民法です。

今回の相談は私人間のトラブルですので、この民法が解決のよりどころとなります(民法は2017年に大改正され、改正民法は2020年4月1日から施行されますが、今回ご紹介する条文に変更はありません)。

「家を買うな、隣人を買え」

そこで民法を確認してみると、相隣(そうりん)関係(隣りあった土地の間の法律関係)のルールが規定されています。今回のトラブルに役立ちそうな条文をみてみましょう。

<竹木の枝の切除及び根の切取り>

233条1項 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

233条2項 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

簡単に言えば、法的には①枝は切ってもらえる(が自分では切れない)、②根は自分で切れることになります。

ただし、根は自分で切れるといっても、根を(相手に無断で)切って竹木を枯らしてしまった場合、権利の濫用(らんよう)として損害賠償責任を負うことがありますので要注意。平凡ではありますが、法的に解決する場合も相手と話し合うことは大切です(相隣関係のトラブルは人間関係にトラブルの「根」があることが多く、話し合いで解決するのが難しいことは往々にありますが…)。

今回の相談についても、この条文(枝は切ってもらえる)を紹介し、「まずは(民法の条文を用意しつつ)話し合いをしてみては」と勧めました。第3回のコラムで取り上げましたが、ロシアのことわざに「家を買うな、隣人を買え」とあるのは納得です。

相隣関係は209条から238条に規定されていますので、隣人関係のトラブルで気になったことがあれば、ぜひご一読を。(弁護士)

➡浦本弘海さんの過去のコラムはこちら