【コラム・奥井登美子】今年の夏の「どんぐり山昆虫観察会」も、蜂刺されもなく、無事に楽しく終わることができた。

異常な天候不順で、7月の日照時間が少なくて昆虫類の発生に響くのではないかと、心配していたが、子供たち大人気の甲虫もたくさんいて、大満足。すごかったのは、紫色の宝石、オオムラサキを10羽も観察できたことだった。

私が小学生のころ、父が鳥もちを使って大型トンボのヤンマを捕まえる方法を、実にうれしそうに話してくれたことがある。

「お父さんは京橋の生まれ育ちでしょう。いったいどこへ、毎日トンボ採りに行ったの?」

「今の東京駅ですよ。あそこは『三菱が原』と言って、大きな広い原っぱだった」

「ヤンマが発生するような湿地もあったの?」

「ありましたよ」

「それが、いつ、なくなったの」

「慶応の学生時代、僕は三田まで毎日歩いて通っていました。歩くと町の中の変化がわかります。そのころ、原っぱの湿地にエンヤコラの掛け声も勇ましく、人力で、松の木を7000本くらい打って、湿地を東京駅にしてしまったのです」

父の話は100年前の「東京昆虫物語」だったのだ。

トンボも蝶も、めっきり少なくなった

昆虫は交代が早いので、生物全体の危機を象徴している。昆虫類は1年で2.5パーセントが絶滅の危機を迎えているという。10年で25パーセント。20年で50パーセントになってしまう。

ヤゴが育つような水たまりが減り、土浦でもトンボを見かけなくなってしまった。わが家の庭で自然に育てているチョウたちも、10年前と比べてめっきり少なくなってしまった。

「オオムラサキが10羽もいたことがありましたよ」。どんぐり山の昆虫が「霞ケ浦昆虫物語」にならないことを願っている。(随筆家)

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