【コラム・中尾隆友】鹿島アントラーズの鈴木秀樹取締役事業部長によれば、J1で親会社から自立した上で優勝しようとしたら、とにかく売り上げを伸ばしていくしかないという。昨年度のJ1の18チームの平均売り上げが30億円に達しない状況下で、日本のチームが世界のトップチームと互角の勝負をするためには、将来的に100億円を目指さなければならないというのだ。 

アメリカのプロスポーツから学ぶ

そこでマーケティングが重要な要素になってくるわけだが、アントラーズはすでにアメリカのプロスポーツチームのデジタル戦略を模倣して、国内で試行錯誤を繰り返してきた。Jリーグのチームで初めて、スタジアム内にハイスペックWi-Fiを導入し、インターネットの環境整備にも余念がない。

デジタル戦略を推し進めた成果として、ファンに関する様々な調査によってデータが蓄積され、新しいアイデアが次々と生まれているという。こういうアイデアを実行すれば、こういう結果が出るということが予想しやすくなったというのだ。仮に予想が外れて思わしくない結果が出れば、次回からやめればいいというわけだ。

マーケティングに労力を惜しまない

10年以上前にはスポンサーからチラシを配るように依頼され、その効果があるのか疑わしい中で多くの人員を使って配っていたが、デジタル戦略を駆使するようになってからは、逆にこちらからスポンサーに「デジタルクーポン」を配ろうと提案できるようになったという。データの裏付けがあるならばスポンサーは賛同してくれるし、コストが安いゆえに失敗しても次は成功しようと前向きに考えられるというのだ。

デジタル技術の進化が日進月歩で進み、マーケティングの結果に基づいて以前の数分の1のコストでビジネスができることは、アントラーズにとって売り上げを伸ばす原動力となっている。ただし、決してアナログの調査を軽視することなく、デジタルとアナログの両方の調査には、人手と時間を惜しまずにかけているということだ。

アントラーズは地方の経営の手本

私は、アントラーズのデジタル戦略は地方の会社経営にとってお手本になると思っている。人口の減少度合いが大きい地方で経営をすればするほど、デジタルを駆使しなければならないということ、マーケティングに労力と時間をかけなければならないということ、この2つの要素が重要であると考えている。

これまでの地方の会社経営では、とりわけ小売業では商圏で何事も考える傾向があったため、距離というものが絶対的に大事な尺度になっていた。ところが、デジタルを駆使すれば距離はあまり意識する必要がないことがわかってきた。地方の経営者に最も求められるのは、マーケティングの結果をもとに、顧客の興味を引きつけるアイデアや仕掛けを次々とつくっていくことなのだ。(経営アドバイザー)

※記事は鹿島アントラーズの鈴木秀樹取締役事業部長と対談した内容をまとめたものです。(下)は8月14日掲載予定

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