【コラム・川上美智子】つくば市から15分ぐらいのところに茨城大学農学部のキャンパスがある。茨大は戦後の学制改革により発足し、今年創立70周年を迎えたが、農学部は他の学部に3年ほど遅れて県立農科大学を母体に開設された。そのキャンパスに、このほど新たに「フードイノベーション棟」が完成した。

地方の国立大学において、新棟建設のために文部科学省が補助金を承認することは極めて珍しいという。それは、茨大が取り組みを進めてきた教育改革を文科省が高く評価したからに他ならない。

農学部は2年前に将来を見据え、国際安全基準に準拠した食づくりの人材養成のため、食生命科学科(国際食産業科学コースとバイオサイエンスコース)と、地域総合農学科(農業科学コースと地域共生コース)の2学科4コース制への教育体制の改編を行った。それは、狭い農業から脱却し、世界に通用する農業・加工・流通・消費に至る新産業人材育成への転換を意図するものである。

その中で、新教育体制に欠かせない国際安全基準HACCP(危害要因分析重要管理点)準拠の実験研究棟が誕生したのである。また、隣接する農学部付属国際フィールド農学センターもGAP(農業生産工程管理)認証を受けて、国際農業への適合化を図った。

国内外や地域の知の拠点に

当方は、茨城キリスト教大学定年退職後、かつて非常勤講師を勤めていた茨大と再びご縁ができて、大学の経営評議会委員や農学部のアドバイザリーボードのメンバーとして、茨大の改革を評価・助言する立場となった。

そのため、たびたびキャンパスを訪問し、農学部の研究スタッフの層の厚さや、先進的な魅力ある旬の研究への取り組みなどを知ることとなり、この4月からは共同研究をやらせていただくこととなった。また、来年4月につくばの保育園が開園したら、園児たちに農学センターで野菜や芋の収穫をさせたいと思っている。

実際、茨大の教育システムの改革や未来を見据えた研究拠点づくりは凄(すさ)まじい勢いで進められていて、大きなパワーが感じられる。教職員や学生たちにも自信が漲(みなぎ)り、弾けて明るい。まさに茨大の叡智(えいち)が結集され、大輪が咲いたのである。

茨大と筑波大学の2つの国立大が切磋琢磨(せっさたくま)して、国内外や地域の知の拠点として一層、人材育成や地域発展に寄与することを期待している。(茨城キリスト教大学名誉教授)

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