【コラム・奥井登美子】昆虫観察会の日にちが決まると、霞ヶ浦市民協会の草刈り係はがぜん忙しくなる。子供たちが危険でないように、山の草刈りを2~3日やらなければならない。私は「ヘビとハチ」危険なものの点検係だ。

昔の子供たちは小さい時から山と付き合っているので、どの山に何がいるか、危険な動物はどれなのか、ヘビの種類も、マムシと青大将とシマヘビくらいは誰でも知っていた。今の子供とその親たち、自然とあまり触れ合うチャンスがないせいか、何も知らない。

若い父親でよく見かけるドラマがある。買ってきたカブトムシしか知らない世代の父親。自分でも生まれて初めてなのだろう。木にしがみつく虫を最初はこわごわ、手で採って見る。6本の足を自由に動かして、その暴れ方のすごさに最初ひるんだが、しばらくやってみると、その力強さにびっくりし、興奮してしまい、連れてきた子供が「パパ、僕にも取らせてよー」と叫んでいるのに、聞く耳を持たない。背が高いから子供より有利だ。自分だけで採って、子供には、採ったカブトを自慢気に手渡す。

オスのカブトムシはお馬鹿さん

私たちは子供たちに、暴れるカブトムシを木から手で採る興奮を味わってもらいたいのだ。山の自然の中にいるカブトムシたちと付き合ってみて驚くのは、メスのカブトムシの頭の良さ、カンの鋭さである。バナナを袋に入れて吊るしてみるとよくわかる。

バナナの匂いをかぎつけてすぐ寄って来るのはメスばかり。オスはすぐには来ない。オスのカブトムシ、立派で強そうな兜を被っていて、戦国武将のよう。見るからに強そうだ。子供たちの憧れの虫であるが、メスと比べると、かなり鈍感で弱い。

メスのカブトムシは鳥が来るとすぐに逃げるので、鳥に食われてしまうことがあまりない。オスのカブトムシはのろまで、すぐ鳥に捕まってしまう。鳥に内臓をきれいに食べられていても、神経は残っている。不思議なことに、自分の内臓がすべてなくなっているのに、それに気がつかなくて、仲間とふざけあって遊んでいる。

要するに、メスは利口ですばやく行動する。オスは少々お馬鹿さんでとろい。カブトムシのメスとオスの成長を見ていると、近所の娘さんで、ひよひよしていた女の子が結婚して子供を産んでから、賢く、たくましくなっていく姿と、見た目ばかりを気にして、会社のつきあいばかりに神経を使う男どもの差を見ているようで、人間の子育てに共通のドラマがあって、とても興味深い。(随筆家)

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