《映画探偵団》21 桜川流域の「金色姫伝説」と宇宙人


【コラム・冠木新市】桜川流域に残る「金色姫伝説」を10数年前に知った。アートイベントの題材に最高だと思った。しかし当時、伝説の地元であるつくば市神郡では、紙芝居作りなどの活動中だったので、遠慮することにした。その後の様子を観察していると、いまひとつ盛り上がらない印象を受けた。ある日地元の画家と会話し、私と同じ思いだと分かった。

伝説は、蚕影山(こかげさん)吉祥院桑林寺(そうりんじ)縁起『戒言(かいこ)』に出てくる。天竺仲国(てんじくは今のインド)霖夷(りんい)大王の娘、金色姫は、継母から残酷な仕打ちを受ける。1度目は悪獣のいる獅子吼山へ、2度目は鷹の群がる鷹群山へ、3度目は絶海の孤島で草木も生えない海巌山へと流され、4度目には内裏(だいり)の庭の深い穴へと落とされる。

けれども不思議と金色姫は生き延びる。姫の身を案じた大王は「仏法繁盛の国へ行き衆生(しゅじょう)を済度(さいど)せよ」と、丸木で作られたうつぼ舟に乗せ、海へと送り出す。姫は常陸の国へと流れ着き、権太夫夫婦に助けられる。だが姫は長旅の疲れから病気になり、すぐ亡くなってしまう。その後、権太夫は夢のお告げを聞き、遺体を納めた唐櫃(からびつ)を開けると、姫は小さな蚕と化していた。

これが養蚕発祥の地に残る伝説なのだが、昭和の貸本屋文化で育った私には、これもでかこれでもかと継母の虐待に耐えたインドでの金色姫に興味が湧く。神郡に舞台が移り、姫があっけなく死んでしまうのは尻つぼみではないか。神郡のアピール度が不足気味の伝説だ。しかし、「金色姫伝説」はその後、変容の道をたどる。

伝説はSF映画の世界へ

享和三年(1803)、うつろ舟に乗った髪の長い美女が玉手箱を抱かえて、常陸の海辺に漂着する。これが江戸の瓦版で報道され話題となる。また22年後、読本作家の滝沢馬琴が『兎園小説』で「うつろ舟の蛮女」として紹介する。さらに2年後、馬琴は星福寺(茨城県神栖市)から、蚕神である衣笠明神錦絵の画賛の依頼を受ける(寺の本尊は金色姫)。

錦絵は江戸で人気を呼ぶ。いつしか「金色姫伝説」と「うつろ舟事件」がゆるやかに結びついてくるわけだが、伝説の変容はまだまだ終わらない。平成に入ると、謎の美女が乗ったうつろ舟が球体でUFOの形に似ているところから、美女は地球外から飛来してきたとなる。つまり、金色姫は宇宙人となり、伝説はSF映画の世界へと広がるのだ。

2014年、私は『つくつくつくばの七不思議サイコドン』(ACCS)で、「金色姫伝説」をテーマに映像実験を試みた。若者が縁結びの石を探して、つくばを旅するお話である。

若者は平沢官衙で突然謎の光に包まれ、昭和13年(1938)の満州にタイムスリップする。そこで、筑波小田出身の満州映画協会筆頭理事、根岸寛一と出会う。若者は、根岸から満映の新人スター李香蘭主演で『金色姫伝説』の映画化計画を聞かされる。最終回は、現代に戻った若者が、つくばセンター広場でUFOに乗った金色姫と出会うシーンで終わる。

インドから日本そして宇宙。「金色姫伝説」は桜川文化圏で一番スケールの大きな物語だと思う。サイコドン ハ トコヤンセ。(脚本家)

➡冠木新市さんの過去のコラムはこちら