【コラム・及川ひろみ】梅雨の終わりから盛夏にかけて咲く、ネムノキの花は繊細で美しい。淡い紅色の細い糸は雄蕊(おしべ)、先端のオレンジ色は花粉の詰まった葯(やく)です。花の中に、少し背の高い白い糸が見られますが、これが雌蕊(めしべ)です。

写真の花のめしべ、まだ成長しきっていないものが多数見られますが、おしべ、めしべの成長には時間差があり、自家受粉を避け、他のネムノキの花と受粉して、丈夫な子孫を残します。ネムノキの花の甘い香りは昆虫たちを誘い、蜜を提供する虫たちのレストラン。昆虫たちによって、めでたく受粉が成功します。

その後、10センチを超える長く大きな鞘(さや)を付けますが、それを見ると、ネムノキが豆の仲間であることが分かります。ネムノキのような花をつけるマメ科の植物は結構あり、触れると、葉が閉じるオジギソウは花や葉のつくりがネムノキとよく似ています。

ネムノキもオジギソウも、小さな向かい合う小葉同士が折りたたみ、オジギソウでは最後に葉の軸も垂れ下がります。オジギソウは触れる刺激ですぐ葉を閉じますが、ネムノキは夕方、葉が合わさって眠るように葉を閉じます。夜、ネムノキを見ると、姿が違い別の樹のように見えます。

ネムノキの花を見るともうすぐ夏休み

ねむの木は、河原や草原など開けた場所に育つ先駆植物(せんくしょくぶつ)で、根は地中深くのびます。昔、川崎市の北部に住んでいたとき、農家の方から、ネムノキのことを「根太」だと聞きました。1メートルほどの高さの樹でしたが、「抜けねえぞ」と。

成長は極めて速く、根付いたら瞬(またた)く間に大きく育ち枝を広げます。しかし、里山の樹木の中で春の芽生えは最も遅く、ほかの木々が葉を広げ終えた5月になって、ようやく枝の先端に芽を延ばす寝坊助です。

そして7月、暑さがこたえるころ、鮮やかな花を咲かせます。子どものころ、土曜日、お腹をすかせて家に帰る途中、ネムノキの花を見ると、もうすぐ夏休みと思ったものです。

その材質は柔らかく、加工が簡単なことから、かつては桶(おけ)、屋根板などに使われていました。また合歓皮(ごうかんひ)と呼ばれる生薬はネムノキの皮を干してつくりますが、鎮痛剤、利尿剤、健胃剤として、また、打撲や腫物には湿布薬として使われるそうです。

さて、ネムノキの花が美しい季節になりました。宍塚の里山の小川の縁に、ネムノキの花が見られます。土浦市宍塚の里山に出かけてみませんか。(宍塚の自然と歴史の会代表)

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