【コラム・奥井登美子】国蝶のオオムラサキの美しさは特別で、まるで宝石のように深い輝きを持っている蝶だ。一度見たら忘れられない。この美しい蝶を、どんぐり山にどんぐりを植えてくれた、たくさんの子供たちに早く見せてあげたい。

幼虫は榎(えのき)の木で育つので、近くに榎がないと育ってくれない。「榎の木、このあたり、ありますか」。「岡野家の山の裏に、大きな榎があるべよ」。

近所の人に教えてもらった所に、巨大な榎の木があった。木の下に、ウサギの耳のような大きな角を持ったオオムラサキの幼虫が何匹もいて、やっと安心することが出来た。来年の夏に観察会が出来たらいいなと思ったが、子供たちを集めるとなると、その前にマムシとヤマカガシ対策が必要である。

マムシとヤマカガシの扱い方

私は小学生の時に長野県の山奥の村に疎開した。その村では昆虫と蛇は、貴重なたん白質の食料である。最初、私は蛇が怖いといって泣いてしまった。泣くと男の子に生きた蛇を首に入れられてしまう。私は仕方なしに怖くないふりをして蛇取りを覚えた。村全体が南アルプスの傾斜の山地だ。

「マムシは山の低いところしか住めない。高い所はマムシがいないから大丈夫だ」。同級生で蛇に詳しい子がいて丁寧に教えてくれる。

マムシには毒があるので咬(か)まれたら大変。病院へ行ってマムシ血清を打ってもらわなくてはならない。マムシ血清は各市町村に必ず用意してある。

蛇を見つけると、尻尾(しっぽ)をつかまえてぐるぐる回転させる。回転しながら直径10センチくらいの小石を拾う。蛇の頭を道路にたたきつけて、頭の部分に拾った石をぶっつけて殺す。頭からくるりと皮を剥(む)いて、5センチくらいに切り、フライパンに入れてよく炒めて最後に醤油をかける。

ヤマカガシは付き合ってみると、かなり個性的な蛇だ。木に巻きついているから、何をしているのかとぼんやり見ていたら、くるりと角度を変えて私の顔にキスをしようとしたりする。油断をすると何をするかわからない小賢(こざか)しいところがある。困ったことに、ヤマカガシに咬まれると血清がないので、咬まれたらかなり厄介なのだ。

子供たちの集まるオオムラサキ観察会の前に、この2種類の蛇だけはどこかに隔離しなければならない。(随筆家)

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