《制作ノート》8 里山に咲く山百合 大輪の白い花


【コラム・沼尻正芳】紫陽花(アジサイ)が終わると山百合(ヤマユリ)の季節だ。家の庭や近くの林には、山百合が今も自生している。7月になると、山百合は大輪の白い花を咲かせる。20を超える花をつけてしなだれるものや四方に花を配して凜(りん)と立つものなど様々で、それぞれが白い貴婦人のようである。

山百合にはアゲハチョウがよくやってくる。アゲハは山百合の赤い斑点に反応し、それを目印に蜜に入る。ガムシロップ並みの甘い蜜に陶酔した蝶は、花粉をめしべに付ける。山百合は独特の甘い香りを放ちながら日中も夜も昆虫を誘う。

子どもの頃から親しんできた山百合を描いてみたいと思った。里山で木漏れ日を受けて咲く山百合を描くことにした。山百合の花弁には黄色の筋が入り赤褐色の斑点がぎっしり付いていて、その斑点を描くのが難しい。めしべは天に向かい、おしべはクルッと6本リズミカルに並んでいる。巻いて反り返る6枚の花弁も独特である。

花に教えてもらいながら山百合の特徴を表現した。たくさん付けた花の1つを主役にし、脇役の花で絵にリズムをつくる。花の中に蕾(つぼみ)もほしい、葉や全体のバランスを考えたり、花を取捨選択したり、背景や空気感などを工夫しながら描いた。ここ3年、山百合の絵を描いてきた。

山百合の絵を、「二人展」で展示した。元理科の先生が「よく観察しているね」と言ってきた。「山百合の花弁は幅広の3枚が花で、残り3枚は萼(がく)で、そこが描けている」と言う。昔、理科の授業で学んだのかもしれないが、すっかり忘れている。その話を聞きながら、描くものの構造を知ることが大切だと思った。

その後はモチーフや絵の構造を意識し、描く順番を考えながらイメージを膨らませるようになった。見る人の感想や意見に耳を傾け、思い込みを修正して絵の表現が相手に伝わるようにしたいと思った。

「人生の楽しみ」「威厳」「飾らない美」

今、蕾が膨らみ始めた山百合に添え木をしている。今年は、どんな山百合の花に出会えるだろうか。開花が楽しみである。

かつて我が家の周辺には、里山がたくさんあった。そこにたくさんの山百合が咲いていた。山百合は至る所に群生していた。その頃の里山はきれいに掃除されていて絶好の遊び場でもあった。夏になると、山百合の花粉を衣服に付けて家に帰った。百合根もよく食べた。甘く煮た百合根は、ほくほくとしていてとてもおいしかった。

今、里山は減少し、一部の公園や高速道の斜面などで山百合を見かけるだけになった。最近は、山百合を見つける度に、車を止めて観察している。北茨城で見た山百合は、この辺のものより花弁が幅広でよりクネクネしていた。山百合も地域や気候で姿が微妙に違うように感じる。去年の夏は猛暑の影響か早く萎(しお)れる山百合が多かったように思う。

日本原産の山百合は2メートルを超える高さになるものもあり、豪華で華麗なことから「百合の王様」と呼ばれている。花言葉は、「人生の楽しみ」「荘厳」「威厳」「純血」「飾らない美」である。いつまでも里山に白い大きな花を咲かせてほしい。これからも里山の山百合を絵にしていきたいと思う。(画家)

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