【コラム・沼澤篤】「霞ケ浦の愛唱歌が欲しい」とは、霞ケ浦の環境問題にも取り組んだ一色史彦氏(古建築研究家)の弁。琵琶湖では「琵琶湖周航の歌」(加藤登紀子)が愛されている。残念だが霞ヶ浦では、人々が口ずさむ歌が少ない。昨年の世界湖沼会議では「かすみがうら讃歌」(きんもくせい)がサテライト会場で歌われ、雰囲気を盛り上げた。この歌は霞ケ浦の魅力を伝える、親しみやすい曲であり、You Tubeで聴ける。

これまで、「霞ケ浦周航歌」(赤根祥道)、「湖沼の伝説」(ピアノ曲:加古隆、世界湖沼会議市民の会委嘱)、「レッツ・クリーンアップ・ザ・レイク」(海老原順)、「君はいつもそばに」(霞ヶ浦市民協会)、「かすみの津頭」(芹沢ひろしとカープファイブ)などが作曲されている。それぞれ素晴らしい曲だが、多くの人が歌うまでには至らない。

生活や業務に忙しい住民が、霞ヶ浦の景色を眺めて感慨に耽(ふけ)る心の余裕を持てず、湖の魅力を十分に感じ取れないのか。アオコ発生、不快臭、死魚やゴミの散乱などの負のイメージが優先するからか。生まれ育った土地で見慣れた霞ケ浦の湖水からは、音楽性が感じられないのか。

しかし、かすみがうら市出身の歌手オニツカサリーさんは、地元のコンサートで自身の作詞作曲による「かすみのうら」を歌い、その魅力や恵みをアピールしている。故郷に帰り、霞ケ浦の美しい景色に癒され、その素晴らしさを伝えようと努める彼女は、私たちのお手本だ。

「真珠採りのタンゴ」「恋はみずいろ」‥‥

湖、河川、海などの景色は洋の東西を問わず、人々を魅了し、美しい楽曲を産んできた。私は霞ケ浦を車で廻(まわ)るとき、CDでラテンの曲を聴く。そのメロディーは広々とした霞ケ浦の風景に溶けこむ。「真珠採りのタンゴ」「碧空」(アルフレッド・ハウゼ)、「マイアミ・ビーチ・ルンバ」(ザビア・クガート)などを聴くと、霞ケ浦が遠い外国の美しい湖に見えてくる。霞ケ浦がこれらの名曲にふさわしい湖になることを夢見る。

ラテンに限らず、「The Shadow of Your Smile~いそしぎのテーマ」(アンディ・ウィリアムズほか)、「恋はみずいろ」(ポール・モーリア)、「渚のアデリーヌ」(リチャード・クレイダーマン)、「ドナウ河のさざ波」(イヴァノビッチ)、「ムーン・リバー」(ヘンリー・マンシーニ)、「スリーピー・ラグーン」(ハリー・ジェームス)、「浪路はるかに」(ビリー・ヴォーン)、「明日に架ける橋」(サイモンとガーファンクル)、「島唄」(夏川りみほか)、「翼をください」(山本潤子)なども、霞ケ浦の景観にお似合いでお奨めだ。

NHK朝ドラ『花子とアン』や『マッサン』で、ヒロインが「広い河の岸辺 ~The Water Is Wide」(スコットランド民謡)を歌うシーンが印象的だった。対岸から嫁いだ女性にとって、霞ケ浦は広い河なのだ。霞ケ浦で良い音楽を聴くことは、歴史、文化、芸術を通して、この湖を大切にする心の育成に不可欠だろう。(霞ヶ浦市民協会研究顧問)

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