【コラム・浦本弘海】生活にちょっと役立つ(かもしれない)法律マメ知識の提供を目指す本コラムですが、今回はやや趣向を変えて(実在する書籍の)読書案内を。

弁護士として法務コンサルタントをしている関係で、法律関係の研修をさせていただく機会があります。そんなときにまず取り上げ、受講者に問うのが「法とはなにか?」です。

現代日本に暮らしているわれわれにとり、「法」は空気のような当たり前の存在で、改めて「法」のそもそも論を考える機会はないと思います。

そこで法律関係の研修では、受講者がご自身「法」をどう捉えているか確認してもらうことを第一歩としています。受講後のアンケートを拝見すると、他の受講者の発表を聞きながら「法とはなにか?」について考えることに対し、好意的なご意見をいただくことが多いです。

このような法の根っこの部分については法哲学という学問分野があり、比較的最近ではマイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房、2010年)が話題になりました。

『誰のために法は生まれた』(木庭顕著)を推薦

今回紹介するのは、木庭顕氏の『誰のために法は生まれた』(朝日出版社、2018年)です。

本書はローマ法を専門とする著者が、中高生のために行った5回の授業の記録がベースになっています。授業は映画(「近松物語」など)を観たり、戯曲(「アンティゴネー」など)を読んだあと、著者と中高生が問答を行う形で進められます。問答が進むなかで、著者の法についての知見が自然と示されていきます。

問答なので軽快に読み進められますが、内容は非常に濃い(そして法律実務家としては耳が痛い)です。たとえば著者は(本来の)法について、(集団から)追い詰められた最後の1人のためにあり、「規律みたいな、ルールみたいなもの」という理解は誤解であると説きます。

「法とはなにか?」という問いに対し、「秩序維持」「規範(ルール)」を挙げる受講者は多く、小職もそう考えています。この点、著者とは対立しますが、あるいはだからこそ、いろいろと考えさせられます。

実のところ「法とはなにか?」に「正解」はなく、ネットで検索しても「答え」は見つかりません。この問いに対する答えは自分自身で考え出すしかないのです。

そして「法とはなにか?」を考えるにあたり、法の機能や目的に着目することも大事ですが、「誰のため」という視点も非常に有効です。本書は「法とはなにか?」を考えるうえできわめて重要な補助線を提供してくれます。

書店でご購入されるもよし、土浦市立図書館に所蔵されておりますのでお借りになるもよし、ご一読をおススメいたします。(弁護士)

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