【コラム・冠木新市】桜川の終着点、土浦に月2度ほど足を運ぶ。土浦駅の並びに市立図書館「アルカス」ができてから楽しみが増した。アルカスには、昭和初期の新聞縮刷版があり、また桜川流域の資料も豊富で、私にはなくてはならない空間になった。行く度に来館者の姿が目立ち、市外からの人も結構多いのではと思われる。そんな図書館が建つ前は、関東一を誇る「つちうら古書倶楽部」を目指していた。

5年前、『茶の間の土浦五十年史』(市村壮雄一著)を3000円で購入し、いい資料が手に入ったと喜んだ。ところが後日、同じ棚の下に同じ本が2000円で出ているのを見つけ、喜びが薄れた。いい本が見つかっても、あちこち広い店内を見た方が賢明である。

昨年は探し求めていた『大菩薩峠』(中里介山著)の全巻揃いを遂に発見した。しかも、12冊の愛蔵版3000円物と5000円物、文庫本20巻の富士見書房4000円物とちくま文庫5000円物、計4セットだ。一体どこに隠れていたのかと思った。私は巻末の注釈が詳しいちくま文庫版を買った。

アマゾンでネット注文すればもっと早く安く手に入るようだが、昭和アナログ世代の生き残りとしては店内の散策体験は捨てられない。

また代表の佐々木嘉弘さんとの会話も貴重だ。先日、古書まつりの最終日に団員と行った際、『新橋芸者かるた』2500円が大人気だったようで「今度手には入ったら4000円の値で出します」と話してくれた。隠れ芸者マニアは意外に多いようだ。

図書館、古書店、あとは新刊書店があればと思っていたら、5月31日、駅ビルの「プレイアトレ」2階に「天狼院書店」がオープンした。60坪の空間に棚ごとにリクエストノートが置かれ、レジ横の黒板には開講するゼミの予定が書かれ、ほとんど目立たないが小さなステージもあった。

若者を意識したオシャレなつくりで、これが成功したら全国に100店つくる計画らしい。同じ本を扱っていても図書館と古書店と新刊書店では性格が異なる。

戦後4度映画化された『大菩薩峠』

未完の大長編小説『大菩薩峠』は戦後4度映画化された。1度目は東映の片岡千恵蔵主演、渡辺邦男監督の3部作(1953)。公開後はほとんど上映されず未見。2度目も東映で千恵蔵主演、内田吐夢監督の3部作(1957~59)。第3部ラスト、氾濫する川の中、壊れた橋の上で息子の名を呼ぶ千恵蔵の演技は息をのむ迫力だ。

3度目は大映の市川雷蔵主演、三隅研次・森一生監督の3部作(1960~61)。女性たちにクールに接する雷蔵の表情はニヒルで格好よい。4度目は東宝の仲代達矢主演、岡本喜八監督(1966)。これはモノクロで1作のみ。仲代が新撰組を斬りまくるラストは悪魔的な不気味さ、ニューヨークで大受けした。

どの作品も個性的で魅力にあふれ甲乙つけがたい。華麗な雷蔵版はアルカス。土俗的な千恵蔵版は古書倶楽部、異色な仲代版は天狼院書店と言えようか。

『大菩薩峠』の映画化が途絶えて半世紀が経過した。新刊書店、図書館、古書店と本の運命をたどれば、本の墓場、いや、リサイクル古本市が想像できる。きっと亀城公園で実現するのではないか。いずれにしても「本」は読むだけではなく「歩く」ためのものだ。私にとっては。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

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