川上美智子さん

【コラム・川上美智子】今年で6年目を迎える「子ども大学常陸」の講座が始まった。子ども大学とは、2002年、ドイツで創設された子ども向けの大学である。日本では2008年、埼玉県の「NPO法人かわごえ」が大学のキャンパスと専門家講師を使い、学校とは別のもう一つの学びの場として第1号を立ち上げた。

この活動はその後全国に広がり、茨城県にも「子ども大学水戸」「いばらき子ども大学」「子ども大学常陸」の3つがほぼ同時期に設立された。いずれも趣旨に大きな違いは見られないが、毎年のプログラムには工夫が施され、子どもの第2の学びの場、体験の場となっている。

私が関係するのは、一番規模の小さい日立市の子どもを対象とする「NPO法人子ども大学常陸」である。

未来の社会の担い手となる子どもたちの自ら学ぶ力、課題を解決する力を育むため、知的好奇心を刺激し意欲的に取り組めるテーマを設定して、大学の教授や研究者、最前線で活躍する専門家に、参加型、体験型の形式でハイレベルな内容をわかりやすく指導いただいている。

今年のテーマは「ふるさとを知る、食べる」である。第1回は「ひたちについて考えてみよう!」で、人口減少著しい日立だからこそ子どもたちに夢をもってもらおうと、まちのよいところをいっぱい知り、深く理解するための講義と妹島和世設計の新市庁舎内の見学を行った。

シティプロモーション担当者からは、海の展望が素晴らしい駅と港、日本唯一のウミウ捕獲場、奥日立きららの里の日本一長いスライダー、世界最大のLNG(液化天然ガス)基地、ユネスコ無形文化遺産の日立風流物、日本最古のカンブリア紀の地層が見られる公園、パワースポット御岩神社等々の日立の誇れる一番の話がたくさんあり、子どもたちは目を輝かせながら聞いたり見たり、まちのことを考えたりした。

地域を支え社会を切り開く人材を育成

ちょうど、この6月半ばには、日立鉱山を舞台にした「ある町の高い煙突」の上映が始まる。煙害を解決するために奔走した住民とその熱意に応えた会社の世界一の大煙突造り、煙害に強いさくらを選別し大島から取り寄せ移植した市のシンボルの大島さくら、煙害被害防止のため日立市庁舎内に設置されてきた歴史ある気象観測所、大煙突を使って国産初の大型モーターを造り日立製作所を創業した小平浪平―など、日立のさまざまな出来事に繋がりがあることを確認する機会にもなった。

子どもたちは、誇らしい気持ちをもってこの町に住み、明日からの学校の学びに向かうに違いないと思えるよい企画であった。

2回目は「低炭素社会ってなに?と日立の一次産業を学ぶ」、3回目は「お芋ラベルデザインコンペと販売イベントの計画を立てよう!」、4回目は「さあ収穫だ!出店準備をしよう!」、5回目は11月の日立産業祭で「さあ出店だ!ひたちを食す!」と成果を確認する。

子どもが考え、互いに意見を出し合い、計画・実践し、達成感を味わう一連のプロセスが、学びの楽しさを知り、地域を支える人材や社会を切り開く人材の育成の一助になれば幸いである。そして、来年4月につくば市内でスタートさせる放課後児童クラブでも同様の取り組みができればと考えている。(茨城キリスト教大学名誉教授)

【かわかみ・みちこ】お茶の水女子大学大学院家政学研究科食物学専攻修了。1971~2016年、茨城キリスト教大学(当初は短大)勤務(1982年から教授)。2016~19年、社会福祉法人ユーアイほいくえん園長。19年4月から、㈱関彰商事ライフサイエンス事業部・保育園開設準備室(つくば市)勤務。現在、茨キリ大名誉教授、茨城県教育委員。著書に『茶の香り研究ノート―製造にみる多様性の視点から-』(光生館、 2000)、『茶の機能』(学会出版センター、2002)、『茶の事典』(朝倉書店、2017)など。兵庫県出身、水戸市在住。