【コラム・斉藤裕之】特に形見というほどのものでもないのですが、生前父が身に着けていた腕時計。私自身は日ごろ時計をしないのですが、何かの折に引き出しの中の動かなくなった時計を見るにつけ、いつか修理してやりたいなあと思うのでした。

ある日のこと。朝の掃除など終えたころに、出かける用意をしているかみさん。聞けば、この春、私の実家を片付けた折に持ち帰った、母のネックレスを修理に出しに行くのだとか。

かみさんは、宝石貴金属には全く興味のない人で、私もこの手のプレゼントをした記憶がありません。それでも、母の真珠ネックレスの壊れた留め金を修理して、来る長女の結婚式に身に着けたいとのこと。

そういうことならと、件(くだん)の親父の時計を取り出して、かねてから気に留めていた近くの時計修理専門店に寄ってみました。実は私も、娘の結婚式にこの時計を身に着けて出席したいと考えていたのです。

どうやら、オーバーホールすれば動くとのことで、ホッとしました。それから、ネックレスの修理に向かいました。お互い話し合ったわけでもなく、結果的に、父、母の形見を身に着けて式に出ることを考えていたわけで、以心伝心。結果的に、オー・ヘンリー短編集的な美談?というところでしょうか。

鰹節削り器と陶製の甕

その日は特に予定もなかったので、ラーメンを食べて野菜直売所で買い物をして、帰りがけに大型リサイクルショップへ。

特にお目当てのものがあったわけではありませんが、広い店内を大方見終わったところで、気になったものがふたつ。鰹節(かつおぶし)削り器と陶製の甕(かめ)。大げさではなく、人生でまだ成功していないことのひとつは、鰹節を上手に削ること。うちにある頂きものの鰹節をいつか削ってやろうと思いつつ。その夢が千円ちょっとのこの削り器でかなうのです。

そして、甕の方はかす漬け用にちょうどよい大きさと値段。なんて思っていたところに、近づいて来たかみさんがつぶやいたこととは。「この甕と鰹節削り器いいよね!」。いやー、驚きました。ひとつならず、ふたつがドンピシャ。

というわけで、鰹節の香る冷奴と糠漬けで、今年の夏を乗り切るとしましょう。そうそう、以前、骨董屋の友人からもらった上半分にたくさん穴の開いた陶製のコップ。この不思議なコップは、糠漬けの糠に差し込むもの。余分な水分が穴を伝って溜まるというものです。ペン立てになっていたのですが、やっと本来の役目を果たせそうです。(画家)

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