《映画探偵団》19 夢想権之助とアラン・ドロン


【コラム・冠木新市】令和元年5月から、『桜川文化圏構想』なる講座を筑波学院大学コミュニティカレッジで始める。桜川市、つくば市、土浦市を流れる桜川に残る歴史・伝説・民謡を語る内容だ。世阿弥作の能「桜川」、二宮尊徳が作った「青木堰」など9つの話をする中の一つに、神道夢想流杖術の流祖「夢想権之助」があり、これが難物である。

私が夢想権之助を知ったのは10数年前だった。当初は、名前の印象から「眠狂四郎」と同じく、小説の架空のキャラクターだと思っていた。ところが後から、本当に存在した人物と分かり驚いた。権之助は江戸時代初期の剣客、宮本武蔵と試合をするが、二天一流十文字留に敗れる。

しかし、その後修業を積み、2度目の挑戦で勝利する(引き分けの説もあり)。これが事実なら、佐々木小次郎をしのぎ、映画、TV、舞台の主人公となって活躍して当然なのに、ほとんど知られることのない剣客なのだ。

この人物の資料は少なく、生没不明。本名は山本勝吉、または平野権兵衛といったようだ。権之助は名前の通り、夢と縁がある。武蔵に敗れた後、筑前(福岡県)の宝満山にこもる。ある日、夢の中に童子が現れ、「丸木をもって水月を知れ」(意味不明)の神託を受ける。そして「刀槍は人を殺し傷つけるものゆえに望みにたらず」と、剣を捨て杖術をあみ出す。この杖術が筑前黒田藩に伝わり、下級武士が学ぶ捕手術となり、現代に受け継がれている。

ところで、生没不明の権之助の顕彰碑が桜川市役所真壁庁舎敷地内に建っている。2014年11月に権之助生誕の地として建立された。どうやら、常陸国城主真壁氏幹の家臣・桜井大隈守の弟子だったことから、真壁出身となったようだ。権之助は若いころカブキ者で、乱暴者だったとの説もあるが、それは表向きで実は地道な男だったとの説もあり、結局は想像力で補うしかない人物なのだ。

杖術の祖と「サムライ」

フランスの思想家ジャン・ジャック・ルソー著の『孤独な散歩者の夢想』に「嘘をついても、自分にも他人にも得にもならず損にもならない場合には、それは嘘でなく、作り話である」との一節がある。武蔵に敗れ、山ごもりをして杖術を考案した権之助を想像すると、ジャン・ピエール・メルビル監督、アラン・ドロン主演の『サムライ』(1967)の冒頭シーンが思い浮かぶ。

ガラーンとした薄暗い室内の中央に鳥かごが置かれ、一羽の小鳥が「ピッピッ」と鳴いている。ベッドで休んでいた男が煙草に火を付ける。煙が流れると、画面右端に小さく白文字が出る。「サムライの孤独ほど深いものはない さらに深い孤独があるとすれば―ジャングルに生きるトラのそれだけだ ≪武士道≫より」。

もっともらしい引用文のようだが、これはメルビル監督の創作した言葉である。ベッドの男はドロンで、一匹狼の殺し屋。これから仕事に出掛けるとの想定だ。

夢想―孤独―サムライ。私は『サムライ』のドロン役に夢想権之助をイメージする。そして、あまり人気のない「桜川」と「夢想権之助」がオーバーラップする。6月の講座で権之助を語る際には、フィクションを加えるつもりである。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

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