【コラム・相澤冬樹】五月(さつき)晴れは五月雨(さみだれ)の晴れ間のこと。入梅後、旧暦五月(6月)に入ってから使う表現だ――と誤用をたしなめる。校閲仕事の習い性で、テレビのレポーターらが5月の行楽日和を「五月晴れ」というのが気になって仕方がない。連休中、複数の局で耳にするとなおさらだった。

辞書には「①さみだれの晴れ間、②五月の空の晴れわたること」(広辞苑)とある。さみだれにこだわらなければ、特に旧暦と断っていないから、今の時節に五月晴れを使っても構わないようにみえる。俳句の季語ならともかく、日常会話の範囲なら目くじらを立てることではないかもしれない。

ちょっと調べてみると、NHK放送文化研究所のサイトに「放送現場・視聴者の疑問」を扱うコラムがあり、「五月晴れ」の使い方に触れている。

  • 「五月」(サツキ)は旧暦・陰暦の呼称です。「旧暦5月(今の6月)が梅雨のころにあたるところから、もともと「五月晴れ」は「梅雨の晴れ間」「梅雨の合間の晴天」を指しました。ところが、時がたつにつれ誤って「新暦の5月の晴れ」の意味でも使われるようになり、この誤用が定着しました。(メディア研究部・放送用語 豊島秀雄)

これが書かれたのが2002年のことだから、多分、誤用定着の分水嶺がこの頃だったのだろう。言語表現の誤用に神経をとがらせ、最後まで慎重派のはずのNHKが「定着した」と折れてしまえば、もはや怖いものはない。各局「錦の御旗」に押し立てて、みんなで渡るだけである。

今ではもっと進んで「五月(ごがつ)晴れ」という読み方まであるらしい。たしかに新人アナあたりが使いそうだ。さすがに「ごがつばれ」では国語辞典に載っていなかったが、ウィキペディアには「ごがつばれと読む場合は、新暦5月の晴れの日を指す。5月半ばごろに大陸から流れてきた高気圧によって、晴天が続く」との記述がある。

なるほど、「ごがつばれ」を新暦5月に使えば、「さつきばれ」を旧暦五月に戻せる。一見合理的に見えるが、定着はしないだろう。言葉は生きものだから、計算通りには運ばない。こんな言い回しの揚げ足をいちいちとっていたら、即座に「うるせーな」と言い返されそうだ。

そうそう、「五月蠅い」と書いて「うるさい」と読む。あの蠅(ハエ)も、暖かくなって活動が盛んになる夏場のハエのこと。俳句の季語にいう、五月蠅(さばえ)である。今どきは陰暦五月―新暦6月まで待たずとも、早々にコバエが発生して結構うるさい。気候変動のせいか、新暦と陰暦の5月の季節感が随分と入り交じってきてしまっている。(ブロガー)

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