【コラム・坂本栄】茨城の人口当たり医者数は都道府県の中ではビリの方ですが、土浦・つくば地域に住んでいる人にとっては「どこの話?」だと思います。勤務医が詰める総合病院の数は「十分では?」と感じている人もいるでしょう。ということは、「十分でない!」地域があるということになります。

3月末、県内の医療格差を拡げるニュースが飛び込んできました。新聞を読んでいたら、中高同級生の佐野治君(JA県中央会会長)が会見、行方(なめがた)市にあるJA病院「なめがた地域医療センター」の機能縮小を発表した、というのです。入院ベッド数を4分の1に減らし、救患の受け入れを止める―がそのポイントでした。

霞ケ浦の対岸、行方地域の医療劣化につながるこの決定、医療リッチ地域の土浦・つくば市民には「ああそうか」程度の話だったと思いますが、新聞に載った行方市民のコメントは深刻でした。緊急病院がなくなるわけですから当然です。

でも、佐野君の決断は仕方がないと思っています。同級生だから味方しているわけではありません。6つの病院を経営するJA茨城厚生連(JAの病院部門)の収支がピンチだからです。すでに4年も赤字が続き、今年も10億近くの赤字になるそうです。経営の視点からこの数字は放置できません。リストラせざるを得ません。

そこで提案します。行方市、潮来市、鉾田市など、なめがたセンターを利用する住民が多い自治体はJAに赤字補填(ほてん)を申し入れ、リストラに待ったをかけたらどうでしょう。関係市が病院経営の支援に動き、行政(医療・福祉・教育は行政の肝です)と経営(公的病院でも経営が大事です)の間で、機能縮小を抑える「解」を見つけたらどうか、と。

湖岸台地に建つ土浦協同病院の偉容

行方地域のプアー化を横目に、リッチ地域の住民は「自分たちに関係ない話」と知らんプリはできません。なぜなら、厚生連の赤字の原因をつくったのは、県南に医療リッチをもたらした土浦協同病院(土浦市おおつ野)だからです。

霞ケ浦岸の台地に建つ同病院の偉容を、私は毎朝、対岸から眺めて散歩しています。最新の医療機器を備え、最上階には展望レストラン、2階には学会も開ける講堂まである、当時の病院長の夢が詰まった施設です。しかし良いことの陰には悪いことがあるものです。全国に誇れる病院にと張り切り過ぎ、建築費が予算を50%もオーバーしてしまったのです。

厚生連赤字の原因は、病院経営環境の変化(来院数減や医療保険など)もあると思いますが、主因はこの予算超過(約150億円)です。新病院の完成によって、リッチな地域はよりリッチになり、ほかの地域がプアーになる―居心地が悪い話です。(経済ジャーナリスト) 

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