【コラム・奥井登美子】高齢になると、ほとんどの人が何かしらの薬を飲んでいるが、かかりつけの医者が勧める薬だから飲んでいるという人が多くて、薬の内容をよく理解して飲んでいる人は半分ぐらいしかいないと思う。

薬剤師会でも、薬の飲み方説明会を「ベストライフ事業」と名前をつけて、パンフレットなどを用意してくれている。

今は、「町内の老人会」というとしかられてしまう。どこの老人会も、洒落(しゃれ)たカタカナ用語のグループ名のついた会になってしまっているのだ。私は頼まれると、なぜかうれしくなって「薬の飲み方説明会」に、のこのこと出かけていく。その時、何年間も我が家の庭の水まきに使って、くたくたになったゴムホースを必ず持参する。

「これ、なんでしょう」「ゴムホース」「よれよれに折れてしまって、中に黒いゴミの粕(かす)がへばりついていますね。皆さん方の血管はもうこのゴムホースに近いのです」

皆、えっ、という顔をしてホースを見る。つかさず、昔、誰かからもらった「目詰まりした血管の模型」とすりかえて、血管の中にたまった汚れと、汚れのために狭くなってしまった血管を広げるのに、どんな努力が必要か。目で見た形で説明をしていく。

血圧降下剤は「24時間勤務」

「1日1回、血圧降下剤を飲んでいる人、この中にいますか」。はい、はい、ハイ。半分以上の人が手を上げる。

「このお薬は24時間勤務で、血液中の薬の濃度を一定にして、血管を広げて血圧を安定させているのです。12時間でやめたら困るでしょう。24時間勤務の仕掛けを、薬の錠剤の中につくらなければならないのです」

私は自分で創った錠剤の形の見本を広げてみせる。薬のコーティング。成分は同じでもコーティングの仕方によって、血液中の濃度が変わってしまうのだ。ジェネリックは成分が同じと宣伝しているけれど、コーティングの説明はしてくれない。私は「24時間勤務」の難しさを強調するしかない。(随筆家、薬剤師)

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