【コラム・及川ひろみ】「宍塚にはうまい大豆『タノクロマメ』がある、食いに来るか」の言葉に、地元のAさんを訪ねたのは2002年のこと。手のひらに載せられた煮豆は普通の大豆より一回り大きく、口にするとほんのり甘く、確かにうまい。

だだちゃ豆など、その土地その土地でおいしい大豆はあるが、この大豆も引けを取らないおいしさで、宍塚の特産にしたいほど。栽培に必要な量をAさんにいただき、グループ「野良クラブ」を立ち上げ、宍塚特産大豆の栽培を開始しました。

野良クラブは、味噌や納豆など大豆加工まで目指すグループです。しかし、里山の中では、芽が出る前から鳥に、成長してからはノウサギに食われ、鳥・ウサギ避けの囲いなど手間ヒマのかかるものでした。

大豆も虫が付きやすい作物ですが、それを避ける栽培法を教えてくださったのは、地元の農家Sさん。味噌にするなら蒔(ま)くのは6月末、育てるのは田の縁、しかも水はけがよい所と教えてくれました。

そんな土地を貸してくださる方も現れ、地元の方々のご指導、協力のありがたさが身に染みました。それ以来、大豆栽培を続けています。一昨年からは、地元の方の協力で宍塚の畑の一等地での栽培が始まり、そこがメーンの栽培地になりました。(会が出版した「続 聞き書き里山の暮らし」によると、耕土が深く排水性がよく、1メートル掘っても水が出ない貴重な場所です)

最近は味噌作りと煮豆用

味噌作りは、最初の年はSさんの台所で、レッスンワンから手ほどきを受けましたが、数年は思うような味になりませんでした。でも、今では地元の方々からお褒めの言葉をいただくほど、宍塚の大豆本来のうまさが生きた味噌ができるようになりました。麹(こうじ)用の米は会の田んぼ塾の米、麹づくりは地元の麹屋さんに依頼しており、塩以外は地産地消の味噌です。

手間ヒマかけ、1~2年寝かせた味噌を販売するなどもったいと、野良クラブのメンバー。蔵出しした味噌は、日ごろお世話になっている地元40~50軒に配るほか、汗水流しボランティアに励む会の人たちにもプレゼント。毎月第4日曜日開催の「森のごちそう」やイベントでも使っています。

納豆や豆腐作りなども手がけましたが、最近はもっぱら味噌と煮豆用です。メンバーのリーダーKさんは、このうまい宍塚の大豆を地元の方が栽培されることを何よりも願い、活動を続けています。(宍塚の自然と歴史の会 代表)

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