【コラム・斉藤裕之】寒いと散髪するのが億劫(おっくう)で、気が付くと坊主頭の毛は指でつまめるほどに伸びました。いつもは3週間に1度のペースで3ミリのワンレングスにしている私の頭を見慣れている友人曰く、「髪が黒いね!」。そうなんですよ。何のケアーもしていないのに、割と黒々とした髪の毛が生えているのです。

「伸ばそうかな」「え?」「実はねえ…」。普通、突然の坊主頭には訳アリ感があります。しかし私のように、10年以上坊主頭の輩(やから)が急に髪を伸ばし始めるのは、それ以上に「なんかあったの?」って聞かれそうですが。

大したことじゃないんですが、1昨年の暮れに無事に嫁に行ってくれた長女夫妻が結婚式をやりたいと。今の時代、結婚観や結婚式の在り様についてはいろいろとあると思います。しかし私もかみさんも、ここは向こうのご両親や娘夫婦のプランに「御意」というのがベスト。

そんな折、遊びに来た娘夫婦に「髪の毛伸ばそうかな」と呟(つぶや)いてみたら、「そうしなよ!」ってうれしそう。やはり、坊主頭より毛があるオヤジの方が少しはマシに見えるのでしょうか。

では、6月まで期間限定で伸ばしましょうということで、人生第3期坊主期終了。10数年ぶりに千円カットへ。そしてシャンプーを買いました。しばらく忘れていた、指の間に泡立つ髪の毛の存在。風呂上がりに見る鏡。引退した高校球児のように少しときめきます。

「髪伸ばした?」って聞かれたら

まあ、私の毛が少し伸びたからといって、何がどうなるわけでもありません。以前から思っていたことですが、絵描きさんは年をとってもフサフサの人が多いような気がします。創造には女性的、母性的な要素があると言われますが、そのせいでしょうか。要するに女々しいのでしょう。

さて、ちょうど学年末で、そろそろ学校も終わり。約1か月後、新年度に再会した私を見て、生徒たちは私の頭の変化に気づくでしょうか。「髪伸ばした?」って聞かれたら、なんて答えましょう。「第3次成長期」とでも答えておきましょうか。

「で、どこでやるの、式は?」「某T国ホテル」「……」

社会の端っこを、世間体など無視してきた私にとって、まさかのシナリオ。まあ、それもありか、私が結婚するわけではありませんから。せめて、イカしたヘアースタイルでバージンロードをエスコートしてやろうじゃあーりませんか。(画家)

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