《邑から日本を見る》 34 涌井義郎さんらの本『有機農業をはじめよう!』

飯野農夫也氏の版画「憩い」

【コラム・先﨑千尋】テレビを見ていると、食べものや健康についての番組がやたらに多い。特定の食材を挙げ、何に効く、血圧が下がる、年齢が若く見えるなど。作り方まで教えてくれる。レストランや和食、ソバなどの店、魚や肉、野菜などの食材の店なども、毎日のようにどこかのチャンネルで見られる。紹介された店は満員になり、食材は売り切れになるようだ。つくづくのどかな国だと思う。

「でもねえ。もっと大事なことがあるのではないか」。わたしはそう考えてしまう。その野菜や果物、畜産物、加工品がどのように作られたのか、だ。

ちょうどそのとき、旧知の涌井義郎さんから『有機農業をはじめよう! 研修から営農開始まで』(税別1800円、コモンズ)が送られてきた。涌井さんは内原にある鯉渕学園を卒業し、同校で30年にわたり、野菜栽培と有機農業を教えてきた。2011年に早期退職し、笠間市で「あしたを拓く有機農業塾」を開設し、新規就農者の育成や有機農業の普及活動を行ってきた。この塾の卒業生は独立就農したり、地域おこし協力隊員となったりし、農業社会で活躍している。

この本は、涌井さんとその仲間3人(藤田正雄さん、吉野隆子さん、大江正章さん)が新規就農者の参考となるテキストを作ろうと考え、分担してまとめたもので、これから実際に有機農業を始めようと考えている人だけでなく、すでに有機農業に取り組んでいる人、農業指導、相談活動に関わる人に役立つ内容だ。

『有機農業をはじめよう!: 研修から営農開始まで』有機農業参入促進協議会(監修)

有機農業をめざす人のハンドブック

本書は7章で構成されている。第1章は、有機農業の現代的意義と、日本と世界の現状と有機農業の果たす役割など。第2章は、有機農業の考え方、基本となる技術とさまざまな営農スタイルを紹介している。有機農業を単に化学合成肥料と化学合成農薬を使わない農業としてではなく、なぜ、それらを使わなくても栽培が可能なのか。その仕組みを解説している。

第3章は、新たに農業に参入する場合に研修を受けることの大切さと研修先の選び方を紹介している。第4章は、就農にあたって準備すべきこと。販路の見つけ方、就農に関わる各種制度の活用方法と相談先、営農計画の立て方や農地、農家の探し方など、かゆいところに手が届く内容だ。

第5章は、先輩新規就農者たちの営農と生き方。石岡市八郷地区で就農した田中宏昌さん夫妻など12組を紹介している。田中さんは東京都出身で、IT企業で働いていた。2011年に八郷農協で研修、13年に同地区で就農し、5年目で野菜と米で800万円の売り上げになった。それぞれの有機農業に取り組む想いや地域への入り方、営農スタイルなどが手短にまとめられていて、読んでいて楽しい。新規に取り組もうとする人たちには参考になろう。

第6章は、研修受け入れ農家の心得と自治体行政の対応の紹介。受け入れ側だけでなく、新規就農希望者がどのような農家で学び、どの地域で暮らすのかを選ぶ参考になる。エピローグは「有機農業をはじめる人へ」。「有機農業の未来には希望がある。後に続く人たちの支援者・指導者になってほしい。地域コーディネーターになってほしい」という執筆者たちのエールが書かれている。

本書が有機農業をめざす人のハンドブックとして活用されれば、と願う。(元瓜連町長)

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