《映画探偵団》 16 フラッシュバックのように


【コラム・冠木新市】中国人の歴史学者をつくばで案内して欲しいと団員から頼まれた。『つくつくつくばの七不思議 サイコドン』(ACCS)のロケ地を巡ればよいと思い引き受けた。また中国人はつくばの何に興味を抱くのかも知りたかった。

1月25日、小野崎の山水亭で枯山水の庭を眺めての昼食。私が『桜川芸者学校』の活動に取り組んでいると団員が紹介すると、中国人は「生徒数は?」「何年制か?」「授業内容は?」と矢継ぎ早に質問。私は持っていたチラシと写真を見せ、「これは桜川流域を背景とした水のまちづくりの演劇です」と話した。

しかし、これまでの公演の観客同様に、本当に学校と思われたまま会話が進行した。あまりにも熱心なのでその理由を尋ねた。すると、中国では現在、抗日ドラマのTVや映画が盛んで、その中に日本軍人と一緒に登場する芸者のシーンがあり、「あの女性たちは何者なのか?」とミステリアスに映り、気になっているとのこと。

さらに、「着物での記念撮影が人気あり、『桜川芸者学校』を中国でやると受けるのではと私は思う」と力説された。

車で中心市街地を抜けて東大通りへ。そして桜川にかかった橋を渡り、周辺市街地のひとつである北条へ。ここで、江戸時代から続く国登録有形文化財の宮清大蔵を見学。主の宮本孝さんの説明を受け、斜向かいにある昭和初期のお屋敷・矢中の杜も案内してもらった。

再び車で北条大池を抜け、奈良・平安時代の建物を復元した平沢官衙(かんが)遺跡へ。中国人はジッと見入っていた。そのあと、つくば古道を走り、神郡の蚕影(こかげ)神社階段下へ。そこで日本養蚕発祥の地に残る、天竺(インド)から「うつろ舟」に乗って流れて来た金色姫伝説を語った。

セルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』

車は急斜面を抜け、筑波山中腹にある梅林公園へ。山を登ると、そこには紅梅が見事に咲き誇っていた。中国人は喜びの声を上げ、スマホで撮影。その様子と眼下の光景を見るうちに、セルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』(1968年)の映像が蘇ってきた。

アメリカ西部の鉄道建設をめぐるお話。鉄道王で身障者のモートン。その配下で人を殺して地上げをするフランク。娼婦から足を洗い結婚のためにやって来たジル。ロングコートに身を包んだ無法者のボス・アパッチ。そしてハーモニカを吹く凄腕のガンマン。この5人が織りなす2時間48分の大作である。この物語には、所々にハーモニカ男が見るフラッシュバックが挿入される。

平原の彼方から1人の男がゆっくり近づいて来る。スローモーションで画面はぼんやりしている。男の正体が分かるのはラストのハーモニカ男との決闘シーンだ。レオーネは「フラッシュバックというのは想像や夢のようにさまよわなければいけない」との言葉を残している。

筑波山の眼下では、<中心市街地ヴィジョン><周辺市街地まちづくり><つくばグランドデザイン><筑波山ジオパーク><泳げる霞ヶ浦>のドラマが繰り広げられている。筑波山と霞ヶ浦を結ぶ桜川流域に残る昔話はフラッシュバックのようなものかも知れない。

5時間つくばに滞在した中国人は「平沢官衙跡と梅林がよかった。でも何と言っても桜川芸者学校が一番!」と感想を残して去っていった。サイコドン ハ トコヤンセ。(脚本家)

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