【コラム・浅井和幸】あなたは今、つくばセンターに立っています。ヒッチハイクをして、大阪まで行こうと考えています。さて、どうするでしょうか?

マーカーで「大阪」と書いた段ボールを、歩道から自動車のドライバーに向かって見せるでしょうか。それで止まってくれなかったら、「東京」と書くか、「大阪もしくは東京」と書いて見せるでしょうか。

運よく止まってくれたドライバーに話しかけ、出来るだけ大阪に近いところまで行ってもらえるように交渉するでしょう。場合によっては、常磐自動車道の谷田部インター付近まででもよいからと言うかもしれません。

目的を伝え、目的に出来るだけ近い手段を模索して、話し合うという順番になります。この順番は当たり前に感じますが、相談の場では別の順番になることで、うまくいかないことが多々あります。

私のところに相談にいらっしゃる方で、いきなり次のようなことを言われることがあります。自分の言うことを否定されるのが怖くて、避けたいので、最初から断られるような話しかけをしてしまうというパターンです。

  1. 相談をしたからといって、全ての悩みが解決するわけじゃないですよね?
  2. 私の子どもは他人の言うことならば聞くので、社会は甘くないと説教をしてください。そうすれば、すぐに問題が解決します。
  3. こちらの相談室で出来ることを全て言ってください。

仮でもよいので目的を伝える

これらの言葉を、上記のヒッチハイクで例えると次のようになるかと思います。

  1. この車で大阪には連れて行ってくれないですよね?
  2. 谷田部インターチェンジから高速道路に乗らなければ、大阪には行けないので、そこまで行ってください。
  3. (目的地は伝えずに)この車で行ける場所を全て教えてください。

せっかくヒッチハイクに協力的なドライバーでも、このような言い回しをされたら協力を避けてしまうでしょう。

このような話しかけは、支援者に協力を求める支援者でもありがちです。先日、障害者支援をしている方(Aさん)から相談がありました。訪問をして勉強を教えてくれる事業所Bに相談したけれど、ちょっと条件が合わず利用できない。似たような支援をしているところを知らないかという相談でした。

別のいくつかの支援ルートの可能性を伝え、私からいくつかの事業所に声をかけるので少し時間をいただきました。

私が別件で事業所Bと話をしていた時に、Aさんからの相談の話を持ち掛けたところ受け入れられるよとさらっと言われました。

後日談ですが、Aさんからは「事業所Bでは、〇〇法という勉強方法は使われてないですよね?」と質問されたので、「その方法は採用していません」と答えたとのことでした。しかし、目的の訪問での勉強は、その「〇〇法」を使わなくても十分に対応できるものでした。

仮でもよいので目的を伝える(聞く)こと、道筋や各々が出来ることを決めつけずに、交渉することがとても大切であることが実感できるケースでした。(精神保健福祉士)