【コラム・及川ひろみ】「宍塚の自然と歴史の会」が発足したのは1989年ですが、間もなく会員が100名を超えました。初めて宍塚に来られた方は、土浦学園線からわずかに入った場所に、自然豊かなところがあることに大層驚かれ、異口同音に「いいところ」と言われました。人工物がほとんど見えず、静かで、しかも奥行があり、変化に富んだ景観に感動されました。

会発足間もないある日、ある方から「確かにいいところだけれど、いいところってどういうこと」との問いがありました。宍塚の自然の特徴を知るためには、自然環境を調べることが必要だと、仲間たち(会員には専門家が多数参加)と、昆虫、植物、野鳥などの調査を開始しました。なるべく標本に残すべきとの強い意見もあり、かなり克明に調べました。

そんなある日、地元の方が、宍塚大池の周りにある泉を案内してくださいました。すでに分からなくなっているところもありましたが、3カ所の泉が確認できました。中でも、地元の何人もの方から聞いていた「サメゲの泉」は、地中から滾々(こんこん)と沸き出ており、一緒に歩いた皆が感激しました。

それから毎月、3カ所の泉の水を採取し、有志が分析を続けました。サメゲの泉は年間を通して水温が一定で、夏は冷たく、冬になると湯気が立ち昇るのが見られました。

過去の宍塚に関する調査記録を探すとともに、地形・地質・水門などの専門家に調査を依頼し、1995年には「宍塚大池地域自然環境調査報告書」(A4判、224㌻)を出版しました。

多様な生き物が生息する場

この報告書には、チョウ、トンボ、クモ、両生類、維管束植物、藻類、水生植物分布などのほか、地形・土壌・水門など21の項目について、筑波大学、農業環境研究所、建設省土木研究所などの研究者による報告も所収されています。

調査結果や過去の記録から、宍塚の里山には、チョウ、トンボについては全国の4分の1以上の種が生息し、植物については県内に記録されている種の約3分の1が生育していることが分かりました。

貴重な種も数多く記録されました。トサハエトリ(クモ)は高知県で発見され、標本はポーランドで保管されていましたが、宍塚で採集されたものが当時日本唯一の標本でした。これらのことは、宍塚の里山が「多様な生き物が生息する場」であることを物語っています(日本の絶滅危惧種の約45%が里山環境に見られます)。

また、宍塚の谷津地形の一つが、約3万年前に形作られたものであり、貴重な地形であることも記されています。報告書作成によって、宍塚の自然環境のすごさが明確になりました。(宍塚の自然と歴史の会代表)